■に用いた金型、パンチとブランクの寸法を示す。x軸とy軸は、それぞれ板材の圧延方向(RD)および圧延直角方向(TD)と平行と定義した。金型の摩耗を低減するために、ブランクとパンチの間には、両面にワセリンを塗布したテフロンシートを挿入した。穴広げ成形試験においては、ブランクをビードで固定し、ブランク外縁部からの材料流入を抑えた状態のもとで、パンチ高さh = 24 mm まで上昇させた。試験中は、上ダイ上部からブランクをデジタルカメラで撮影した。デジタルカメラの撮影周期は3 Hzとする。ブランクに発生した変位分布およびひずみ分布の算出には、GOM Correlate Professional 2021を使用した。 図5 穴広げ成形試験に用いた金型およびブランク寸法7)■4 2■データ同化結果■■データ同化を行う際の観測ベクトルには、DIC法で計測した変位分布およびひずみ分布の他に、単軸引張試験の測定結果を用いて計算したr値を含めた。DMC-TPE法を用いたデータ同化では、推定対象のパラメータの初期推定値と値域を定義する必要があり、Yld2000-2d降伏関数の異方性パラメータの初期推定値は、i = 1.0 (i = 1、2、…、8)およびM = 8.0とした。摩擦係数の初期推定値は、1 = 0.3および2 = 0.03を用いた。異方性パラメータおよび次数パラメータの推定範囲は、0.7 ≤ i (i = 1, 2, …, 8) ≤ 1.3と6.0 ≤ M ≤ 10.0とした。摩擦係数の推定範囲は、実験においてはブランクとパンチ間にワセリンを塗布したテフロンシートを挿入するため0.0 ≤ 1 ≤ 0.6、0.0 ≤ 2 ≤ 0.06とした。穴広げ成形シミュレーションは、Abaqus/Standardを用いて実施し、Yld2000-2d降伏関数およびSwiftの加工硬化則を導入するために、UMMDp11)を用いた。 図6に、データ同化の過程で得られた評価関数J(x0)の推移を表す。成形シミュレーションの繰り返しに伴い、J(x0)は減少し、J(x0)の最小値の更新に成功した。表2に、Yld2000-2d降伏関数のパラメータおよび摩擦係数の推定結果を示す。次数Mは、面心立方格子金属の推奨値に近いことがわかる。摩擦係数2は、初期推定値から大きく減少したことがわかる。 表2に示したパラメータおよび摩擦係数の最適推定値を用いて実施した穴広げ成形シミュレーションの計算結果が、DIC法で計測した実験データを再現可能か検証した。図7に、パンチ高さ22.2 mmの時点における、最適推定値を用いた穴広げ成形シミュレーションで得られたx軸方向変位Uxと、DIC法での計測結果との差分(絶対値)を示す。最適推定値を用いることで、DIC法での計測結果に即した変位分布を得られることが確認できる。すなわち、本研究で開発したデータ同化手法を用いることで、1回の実験データから降伏関数のパラメータおよび摩擦係数の逆推定が可能となり、成形シミュレーションの精度が向上することが示された。 図6■DMC-TPE法によるデータ同化計算から得た評価関数J(x0)の推移。図中の黒点は、J(x0)の最小値が更新されたことを示す7)。 ■表2 データ同化によるYld2000-2d降伏関数のパラメータ(I ~ 8、M)および摩擦係数( )の最適推定値7)■図7(a) DMC-TPE法によるデータ同化と(b)二軸引張試験の結果から推定したYld2000-2d降伏関数のパラメータおよび摩擦係数を用いて算出したブランク表面でのx軸方向変位UxとDIC法による計測結果との差分 (絶対値による誤差評価)。(b)の条件では、従来研究を参考に摩擦係数1 = 0.3、2 = 0.03と設定した7)。 ■5.まとめと今後の展開■本研究では、データ同化を活用した材料モデリング手法と超高精度プレス加工シミュレーション技術の開発を目的とし、最終的に開発した技術を産業界で利用しやすい形(ソフトウェアなど)で提供することを目指した。研究期1■1.082 7 − 89 −3■2■ 8 4■ 1 5 2 6
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