天田財団_助成研究成果報告書2024
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3.水素透過合金膜のしわなし成形法の開発分の圧縮応力により円周方向のしわが生じると予想される.また図5(b)より,ガスケット近傍およびサポートとの接触境界付近において,膜にひずみが集中している事がわかる.図5しわ発生モデルにおける水素透過中の応力,しわ発生モデルにおける水素透過中の応力ひずみ分布2.4下部ガスケット形状の影響水素透過試験で破損した膜では,半径や円周方向での局所的な圧縮応力の発生や,相当塑性ひずみの集中が見られた.そこで本研究では膜やガスケット,サポートの条件を変えることで応力やひずみの低減を図った.図6は下部ガスケットの肩半径を増加させ,2次側へ膜が変形する際の支持条件を変更したモデルである.このモデルを用いて水素透過中および水素透過後の膜形状の解析を行った結果を図7に示す.しわ発生モデルと同様,大きな水素膨張により,膜がガスケット近傍で1次側へ変形する様子が見られた.またしわ発生モデルと比べ半径方向応力,円周方向応力,相当ひずみの分布に大きな変化は見られなかった.2.5膜初期形状の影響次に膜の初期形状が膜の変形挙動,応力,ひずみ分布に与える影響について検討を行った.図8は膜をあらかじめ2次側方向への深さを有する形状(皿型膜)とすることで,図4(a)に見られたような昇温時の膜の1次側への変形を抑制することを狙ったものである.また同時に膜の曲線部分が下方に移動しながら半径方向に膨らむこ(b) 相当ひずみ分布(a)円周方向応力図6下部ガスケット肩半径を変更したモデル図7下部ガスケット形状変更モデルにおける水素透過中および透過後の変形挙動とによって半径方向・円周方向ともに伸びる余地ができることにより,それぞれの方向の応力を低減する効果が期待できる.図9に皿型膜モデルを用いた水素透過プロセス中の膜形状の変化を示す.皿型膜では昇温の際(a)も2次側に変形している.水素透過中(b)ではサポート,ガスケット肩部が膜を支持し,かつその中間の位置において膜が外側に膨らむことができる空間が残っていることがわかる.図10に皿型膜モデルにおける1サイクル目,水素透過中の(a)円周方向応力,(b)相当ひずみの分布を示す.膜の中心部分における円周方向応力が小さくなっていることがわかる.また中心から45mm付近の圧縮応力が大きい部分においては,ガスケット肩部が膜を支持するため,平膜モデルの場合に比べ座屈が起きにくく,しわ発生を抑制できると考えられる.相当ひずみも大幅に小さくなっており,割れ発生の抑制に寄与すると考えられる.本研究で対象とする水素分離合金膜は直径に対して厚さが極めて薄い箔(D/t≧1000)であり,例えば皿型膜に成形する深絞りにおいて通常の方法ではしわが極めて容易に発生してしまう.特にダイ肩からパンチ肩にかけての壁部は金型に接触しない領域であり,箔の成形ではしわが生じやすく,従来の方法では回避することが難しい.金属箔の成形に関してはこれまで,いくつかの手法が(a)水素透過中(一次側ガス圧0.4MPa, 623K)(b)水素透過後(一次側ガス圧0MPa, 273K)(b)水素透過後(一次側ガス圧0MPa, 273K)図8 皿型形状モデル− 81 −

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