割れ(b)大型合金膜(φ98mm)1.研究の目的と背景キーワード:水素分離合金膜,水素膨張,極薄板深絞り加工水素は利用時のCO2排出がないことから,化石燃料の代替やエネルギー貯蔵の手段としての利用が期待されている.自動車や家庭用に用いられる燃料電池には高純度の水素が用いられており,水素貯蔵密度の高いアンモニアや有機ハイドライドなどのエネルギーキャリアから高い効率で高純度水素を取り出すことが可能な水素分離合金膜が注目されている1).水素分離合金膜は図1に示すように水素分圧の高い一次側表面で水素分子が乖離し,水素原子となって金属合金膜中に溶解していく.水素原子は合金膜中を拡散し,水素分圧の低い二次側表面で水素原子同士が再度結合して水素分子となり放出される.このような溶解・拡散機構から,二次側に透過するガスは99.9999999%(9N)の超高純度が得られる.図1合金膜を用いた水素分離の原理これまでに代表的な水素透過金属であるPd系合金については広く研究されていているが2),Pdは資源量が少なく高コストであることが問題となっている.その代替として,資源量が豊富で安価で水素拡散速度が極めて速く,かつ水素脆化が起きにくいV系の水素透過合金膜が開発されており,小サイズの試験片(図2(a))においては十分な水素透過能と耐久性があることが実証されている3).しかしながら実用的な水素流量を得るためには,合金膜図2水素透過試験後の合金膜(a)小型合金膜(φ33mm)水素固溶および熱による膨張名古屋大学大学院材料デザイン工学専攻(2020年度重点研究開発助成課題研究AF-2020003-A3)ガスケットで固定准教授湯川伸樹2.有限要素解析による最適形状の検討のさらなる大面積化が必要であるが,合金膜を大径化すると水素透過操作後の膜に図3(b)に示すように合金膜にしわが発生してしまうことが分かっている.このようなしわが発生すると,水素透過–休止を繰り返すうちにそのしわを起点に割れが発生し,水素分離膜としての機能を喪失してしまうため,大型水素透過合金膜を実用化する上で克服しなくてはならない大きな課題である.このしわは,水素透過時における①ガスの一次圧と二次圧の差による膜の二次側への変形,②加熱による合金膜の熱膨張,③水素原子が合金膜中に固溶することによる合金膜の膨張という原因が複合して生じるものであると考えられる.特に③は水素分離合金膜に特有の現象であり,しかも水素固溶量に対する体積膨張率が熱による体積膨張と比べて極めて大きいことが特徴である.高温での水素透過中に合金膜には円周方向および半径方向の大きな伸びが生じ,それが周辺部のガスケットにより拘束されるために圧縮応力がその近辺に集中してしわが発生するものと考えられる.このような応力集中を回避する方法として,ガスケット形状や合金膜の3次元的な初期形状を工夫することが考えられる.例えば合金膜を皿型にすること,あるいはガスケットに傾斜またはRをつけることにより,素材の体積膨張分を吸収し,応力の集中をある程度緩和することが可能であると考えられる.しかしながら,合金膜の水素透過時の変形は上記①〜③が複合したもので複雑である.本研究では,まずこのような応力集中を回避可能な合金膜の最適な初期形状やガスケット等の支持構造と,素材の機械的特性,厚さや大きさなどとの関係を有限要素解析を用いて明らかにし,しわ・割れが発生しないような最適形状に関する指針を得ることを目的とした.また水素分離金属膜をそのような形状に成形する際,直径に対する厚さが非常に薄いために成形時にしわや割れが生じてしまうおそれがある.そこで大径薄板の成形法を検討し開発することを本研究の2つ目の目的とした.固溶水素による格子膨張を模擬したFEM解析により,平膜型の水素分離合金膜の性能を評価するため,2D軸対称モデルを用いて,平膜型の水素分離合金膜について水素透過時の変形挙動や応力・ひずみ分布を算出し,膜の損傷を抑制するための方法を検討した.− 79 −大型水素分離合金膜の形状最適化および成形技術の開発
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