天田財団_助成研究成果報告書2024
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謝 辞 参考文献 図5 ICO:H の結晶化後の外観写真 徴の無い構造を示した。PC = 2,500 では ICO:H 膜表面に多数の微結晶が発生した。PC = 5,000 では、更に微結晶が増加すると共に、一部の微結晶が粒成長していることが確認された。PC > 5,000 では主に粒成長が進行した。PC = 15,000 で膜の結晶化は全面に到達し、表面は直径 2 μm 以上の大きな結晶粒で覆われた。ここでは示していないが、PC 15,000 以上では結晶成長は進まず、PC = 30,000 の構造は15,000 の場合と同様だった。なお、図5に示すように結晶化後の外観から、白濁などの変化は起きていない。 表1に様々な PC における ICO:H 薄膜の電気的特性をまとめた。比較のために、市販の ITO/PET の特性も示している。PC = 2,500 で、ICO:H 薄膜の N は 2.72 × 1020 から 2.12 × 1020 cm-3 に減少し、ホール移動度 (H) は 43.3 から 45.6 cm2/Vs にわずかに上昇した。PC > 5,000 で、PC の増加に伴い ICO:H 薄膜の N は比較的一定で H は大幅に上昇し、抵抗率 () の低下を示した。この H の変化は、主に非晶質相から多結晶相への組織変化によって引き起こされる。完全に結晶化されたPC = 15,000 および 30,000 の ICO:H 薄膜は市販のフレキシブル ITO 薄膜の6倍以上となる H =124~126 cm2/Vs を達成した。これは、低耐熱性樹脂フレキシブル基材上の TCO フィルムでは世界最高移動度である。また、市販の ITO と比べてキャリア密度が1/4でありながら、高い移動度により、抵抗率もさらに低い。 図6aは開発した PET フレキシブルシート上 ICO:Hフィルムを波長 950 ~ 1700 nm に感度を持つインジウムガリウムヒ素 (InGaAs) 検出器の近赤外線カメラで撮影した様子を示す。比較として図6bに市販の ITO フィルムの場合を示す。ICO:H フィルムは近赤外線の透光性が高く、フィルム越しに裏面の文字が明瞭に認識できる。一方、近赤外線の透光性が低い ITO フィルムの場合では、視認性が著しく低下している。これらの特徴は、近赤外光も発電に利用するフレキシブル次世代太陽電池の窓電極として好適である。また、自動運転を支える高感度で長距離まで認識可能な次世代 LiDAR (Light Detection And Ranging) を実現するのための透明ヒーターとしても好適である。 3.まとめ 本研究では、透明導電膜の固相結晶化にエキシマレーザ図6 赤外線カメラを用いた視認性評価 ーを用いた光結晶化技術を採用することにより、前人未到であったフレキシブル高移動度透明導電膜を形成することに成功した。適切な層構造の基材上にRPD法で作製した前駆体薄膜において、適したパルス数のKrFエキシマレーザー照射により基材へのダメージ無しに固相結晶化を可能とし、フレキシブルPETシート上に形成された透明導電膜の中で世界最高値である H =126 cm2/Vs を実現した。この高い H により低い N でも高い導電性が得られるため、可視から近赤外線帯域までの広い波長帯域で高い透明性を実現した。これらの特徴は、近赤外光も発電に利用する次世代フレキシブル太陽電池の窓電極や、自動車の自動運転技術を支える次世代近赤外カメラの透明ヒーターとして好適である。また、材料の分光スペクトル変化を利用した、結晶化モニタリング技術を開発した。必要最低限の照射での機能発現を支援する当該技術は、プロセスコストの大幅な低減につながる。 本研究の一部は、公益財団法人天田財団の奨励研究助成(課題番号:AF-2021242-C2)および独立行政法人日本学術振興会の科学研究費助成事業の基盤研究(C)(課題番号:JP21K04148)による支援を受けて実施した。SIMによる薄膜表面の観察は文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号:JPMXP1222AT0314)の支援を受けて、産総研ナノプロセシング施設において実施した。 1) T. Koida, and Y. Ueno, Thermal and Damp Heat Stability of High-Mobility In2O3-Based Transparent Conducting Films Fabricated at Low Process Temperatures, Phys. Status Solidi A 218 (2021) 2000487-1-13. 表1 ICO:H の電気特性 − 440 −

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