天田財団_助成研究成果報告書2024
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2・2 エキシマレーザー照射によるフレキシブル基板上透明導電膜の固相結晶化7,8) 次に、エキシマレーザー照射条件と ICO:H 薄膜の物性との関係を詳細に検討し、照射条件の最適化を図った。照射対象である前駆体薄膜の形成手法と、固相結晶化後に得られる電気測定との事前検討から、直流アークプラズマを用いるイオンプレーティング法(製品名:反応性プラズマ蒸着 (RPD) 法で広く認知)で形成した前駆体薄膜は非晶質性が高く、一方で、高周波マグネトロンスパッタ (RF-MS) 成膜の前駆体薄膜には微結晶が多数含まれることがわかった。微結晶密度のこれらの違いは、堆積粒子のエネルギーの大きさの違いによるものと考えている。RPD 法の堆積粒子のエネルギーは 40 eV 未満であるのに対し、RF-MS の場合はそれ以上でありより大きな運動エネルギーを持つ堆積粒子に対応する。11)これは、吸着原子の拡散を促進し、原子がより安定した構造に再配置され、微結晶の生成が増加することが予想される。12)また、前駆体薄膜の微結晶密度が低いほど、結晶化後に形成される結晶粒が大きく、得られるキャリア移動度が高いことが明瞭となった。 上述の事前検討の結果から、本研究の目的であるフレキシブル高移動度透明導電フィルムの実現には、PRD 成膜の前駆体薄膜が好適であると結論した。また、基板は SiO2 コートしたフレキシブル PET シートが本研究でも好適であった。ここで SiO2 層は、レーザー照射時に生成される熱が ICO:H 層から基材層へ伝達するのを抑制するために挿入している。7) 得られ、結晶相と非晶質相との判別が明瞭であったことから本研究ではSIMを採用した。画像上の数値は電子後方散乱回折法により観察された逆極点図方位マップから算出した結晶化度(測定領域に対する結晶領域の面積割合)を示している。図4から明らかなように前駆体薄膜には微結晶は確認されず、ICO:H 前駆体薄膜は平坦性の高い特図4 ICO:H の表面走査イオン顕微鏡 (SIM) 像 SiO2 コートしたフレキシブル PET シート上に RPD成膜 ICO:H 前駆体薄膜に対して、KrF エキシマレーザーをレーザー強度 40 mJ/cm2 と繰り返し周波数 50 Hz の条件で、パルスカウント (PC) を変化させて照射した。図 4に様々な PC のレーザー照射における ICO:H の表面走査イオン顕微鏡 (SIM) 像を示す。表面観察には走査電子顕微鏡 (SEM) が頻繁に採用されるが、電子よりも Ga イオンの場合において高いチャネリングコントラストが図2 結晶化モニタリング装置 図3 ICO:H 膜の (a) UV および (b) NIR 画像 イトへの置換水素 (Ho) に変化するためであると考えられている1,2)。また、結晶化により、ICO:H 膜の吸収端が短波長へブルーシフトし、光学バンドギャップの増大が確認される。吸収端シフトに N が影響するバースタイン・モス効果が知られているが、上記とは相反する。ここで注目すべきは、結晶化前の ICO:H 膜は非晶質であるということである。非晶質相の無秩序性により、通常は価電子帯の上部と伝導帯の下部からはパリティであり発生しない光学遷移が起き、基本ギャップに類似した光学バンドギャップとなる。一方で、結晶化した場合には価電子帯の上部からは禁制遷移となり、それより下部からの遷移が許容となるため、光学バンドギャップは大きくなる。10) 以上のことから、ICO:H膜へのエキシマレーザー照射時に、UVおよびNIR域における分光スペクトルの変化をモニターすれば、照射によって引き起こされる構造変化を観察可能なリアルタイム結晶化モニタリングシステムと成る案が産まれた9)。 図2に開発したシステムの構成を示す。光源として UV ( =395 nm) および NIR ( =1600 nm) 発光ダイオードを使用し、検出器として2台のカメラを使用している。開発したカメラシステムで撮影した ICO:H の UV および NIR 画像をそれぞれ図3a, bに示す。UV 画像(図3a)とNIR 画像(図3b)のどちらからも、レーザー光を照射して分光スペクトルが変化した、すなわち結晶化した領域(事前にネズミの形にパターン照射)が認識できる。 最適なレーザー照射数を超えた場合は、特性変化が殆ど無い。そのため、エンドポイントを見極めて必要最低限の照射で機能発現を支援する当該技術はプロセスコストの大幅な低減につながる。 − 439 −

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