キーワード:透明導電膜,レーザー照射,固相結晶化 フラットパネルディスプレイの表示電極や太陽電池用窓電極等の用途に広く利用されている。近年ではフレキシブル電子デバイスの発展・普及に伴って、透明電極を設ける基材にも更なる軽量化が要求されている。そのため、透明電極を設ける基材には、ガラスに比べてより軽量なポリエチレンテレフタレート (PET) やポリエチレンナフタレート (PEN) 等の透明樹脂基材の使用が多くなった。透明電極としての TCO 材料には、酸化インジウム (In2O3) に適量の錫 (Sn) を添加した In2O3 : 通称 ITO が最も利用され広く認知されている。昨今では、適量の水素 (H) と遷移金属 (例えばセリウム Ce やタングステン W) を In2O3 に添加もしくは共添加した In2O3 が 100 cm2/Vs を超えるキャリア移動度を実現でき (ITO の場合は約 20~40 cm2/Vs)、電気伝導を劣化させることなく低いキャリア密度に因り透明領域を近赤外線波長域まで拡張することができる。そのため、可視から近赤外光波長領域にわたる広い分光感度を有する太陽電池用の透明電極として検討されている。1,2) 何れの材料においても、ガラス上では成膜時もしくは成膜後に約 150 ℃ を超え、好ましくは 200 ℃ 程度の熱処理により、結晶性やドーパントの活性度を高めることで、高い透明性と高い導電性を実現している。しかしながら、PET 等の低耐熱性樹脂の基材を用いる場合、加熱処理は、基材の変形、変色等、耐熱性に係る問題が生じることがあるため採用が困難である。それゆえ、低耐熱性樹脂基材上でガラス上と同等の特性を実現するのは困難であった。 上記の解決策として、申請者は一般的な熱処理の代わりに紫外線エキシマレーザー照射3,4)による機能発現技術を開発した5~7)。例えば、本研究で使用したクリプトン-フッ素 (KrF) エキシマレーザーは次の特徴を持つ。① 波長 () 248 nm = 5 eV の高い光子エネルギー、②レーザーの1 パルス当たりの時間は数十ナノ秒、③レーザー光の TCO 膜への侵入深さは約 50 nm (膜の吸収係数@=248 nm ≒ 2.5×105 cm-1 から算出)。以上の特徴から、TCOの膜厚を 50 nm 以上に設計すれば、KrF エキシマレーザー照射により、TCO 表面温度を瞬時にそして選択的に、すなわち基材への熱ダメージ無しに上げることが可能であ1.研究の目的と背景 本研究で対象とする透明導電酸化物 (TCO) 材料は、透明電極を必要とする多くの用途で使用されており、例えば、るため、短時間で膜の結晶性やドーパントの活性化に伴う導電性の向上や表面構造の改質が期待できる。実際に、ITO への検討において、市販品の更なる高伝導化および高仕事関数化に成功している。5~7) 本研究では、前人未到であったフレキシブル高移動度透明導電フィルムの実現ために、エキシマレーザー照射条件の最適化7,8)と、最適なエンドポイントでプロセスを完了するためのモニタリング技術9)の開発を目標とした。 2.実験方法 2・1 結晶化モニタリング技術開発9) 本研究では、レーザー照射条件最適化における実験のハイスループットを狙い、TCO膜表面に生成される熱を直接測定する技術の開発を研究当初進めた。しかしながら、生成熱を直接モニターする技術の実現には至らなかった。代替技術として、対象とする IO:H 系透明導電膜の分光スペクトルが固相結晶化前後で変化する特徴を活用して、結晶化モニタリング技術を開発した。 図1に固相結晶化前後における H および Ce共添加In2O3(以後、ICO:Hと表記する)膜の光透過スペクトルを示す。先ず注目すべきは、 = 1000 nmを超える近赤外 (NIR) 領域で透過率が約10%増加していることである。これは、固相結晶化時に膜のキャリア密度 (N) が減少するため、自由電子の吸収もしくは反射が低減したことに因る。N の低減は、主なキャリアの起源が2価の酸素空孔 (Vo) から 1 価の格子間水素 (Hi) および/または酸素サ 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 (2021年度 奨励研究助成(若手研究者枠) AF-2021242-C2) 主任研究員 野本 淳一 図1 ICO:H 膜の光透過スペクトル − 438 −プローブ層を用いた紫外線レーザー照射における生成熱の測定とその制御技術に関する研究
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