天田財団_助成研究成果報告書2024
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図2:有機フォトダイオードの基礎特性(a)近赤外光を照射したとき(赤線)と暗闇(黒線)での有機フォトダイオードの電流電圧特性。(b)有機フォトダイオードの外部量子効率フレキシブル有機イメージセンサに光が照射されると、有機半導体層が光を吸収することで、光電変換により光電流が発生し、電荷が各セルのセンサ素子のキャパシタに蓄積される。この蓄積された電荷量を信号として読み出すことで、微小な光のイメージングを行うことができる。この読み出し・信号処理を行う回路部分は、フレキシブルケーブル上に実装を行っており、フレキシブル有機イメージセンサのシステム全体が高いフレキシブル性を有している。次に、フレキシブルイメージセンサの作製方法について説明する。フレキシブルイメージセンサは、厚さ10 µmのポリイミドを基板として用いており、はじめにポリイミド基板上にLTPSのトランジスタバックプレーンを作製している。作製した薄膜トランジスタは、チャネル長が4.5 µm、チャネル幅が2.5 µm、移動度が約40~70 cm2/Vsである。LTPS薄膜トランジスタは、SiO、SiN、SiO、アモルファスシリコンの4層を成膜し、エキシマレーザーを用いてアニールを行うことで、アモルファスシリコンを結晶化させ、ポリシリコン層を形成する。ポリシリコン層を形成した後、ホウ素とリンをドーピングすることで、それぞれpMOSトランジスタとnMOSトランジスタの電極を形成した。電極を形成後、絶縁膜として70 nmのSiO、ゲート電極として250 nmのMoWを成膜した。その後、有機フォトダイオードをバックプレーン上に形成するために、厚さ2 µmの平滑層と封止膜を成膜した。バックプレーンと有機フォトダイオードは、封止膜にドライエッチングを用いて形成したビアを通じて接続を行っている。次に、有機フォトダイオードをバックプレーン上部に形成した。有機フォトダイオードは、酸化インジウムスズ(ITO)を透明電極として用い、ITO上部に酸化亜鉛(ZnO)層を形成することで、電子輸送層を形成した。アクティブ層には、ドナー材料としてPMDPP3T7)、アクセプタ材料としてPC61BMを混合したバルクヘテロ構造を用いている。ホール輸送層と上部電極には、PEFOT:PSSと銀をそれぞれ用いた。また、有機フォトダイオードを作製後に、厚さ1 µmの高分子膜で封止を行っている。最後に、レーザーリフトオフプロセスを用いることで、ポリイミド基板を支持基板として用いていたガラス基板から剥離することで、フレキシブルイメージセンサを実現した。 ・ イメージセンサの基礎特性これまでに報告されている近赤外光に応答するフレキシブルな有機フォトダイオードは、暗電流が高いために、検出感度が低いといった課題があった8, 9)。また、暗電流を低く抑えた有機フォトダイオードも報告はされているものの、光感度が低く生体イメージングには用いるのが難しかった10-12)。我々の開発したフレキシブル有機フォトダイオードは、ドナー材料とアクセプタ材料の混合率、有機層の膜圧を最適化することにより、近赤外領域における高い感度と、低い暗電流を同時に実現することに成功した。分光感度は、静脈認証などで用いられる850 nmの波長において、0.57 A/Wを示した。この分光感度は、従来のイメージセンサなどに用いられているシリコンフォトダイオードと比較しても同等の感度となっている。また、作製した有機フォトダイオードの暗電流密度は10-7A/cm2以下と低く、波長850 nmで出力が2.9 mW/cm2の近赤外光を照射した時の光電流密度は1.7×10-3A/cm2を示しており、4桁近いON/OFF比を実現した(図2)。開発したフレキシブルイメージセンサは、高解像度と高速動作を実現するために、移動度の高いLTPSトランジスタをバックプレーンに用いている。実際、LTPSトランジスタの移動度は10 cm2/Vs以上あり、有機トランジスタやアモルファスシリコンの薄膜トランジスタの平均的な移動度1 cm2/Vsと比較して、高い移動度を有している。また、LTPSはドープ材料を変えることで、PMOSとNMOSの両方を簡便に実現することができ、CMOS回路を形成することができるという利点を有している。また、トランジスタのオンオフ比に関しても、104~106である有機トランジスタやアモルファスシリコントランジスタと比較して、107以上と大きなオンオフ比を実現している。今回作製したLTPSトランジスタは、PMOSとNMOS共に移動度が40~70 cm2/Vs、オンオフ比も7桁以上であり、非常に良好な特性を実現することができていた。図3:フレキシブル有機イメージセンサで撮像した生体情報(a)静脈画像(b)指紋画像− 426 −

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