1.研究の目的と背景キーワード:有機イメージセンサ,生体イメージング,有機フォトディテクタ半導体を用いたイメージング技術の進歩とともに、医療診断用の機器は発展を遂げてきた。X線や超音波などの電磁波を用いたイメージングは、生体内の情報を非侵襲に取得することが可能である。実際、これらの電磁波を利用したイメージング技術である磁気共鳴画像診断(MRI)やコンピュータ断層撮影(CT)などは、病気の診断などにおいて必要不可欠な技術となっている。これらの生体イメージングの重要な応用は、大きく分けて2つに分類することができる。1つ目は、X線やCTなどを用いた体内の静的な生体情報を撮像するイメージング応用である。もう1つは、脈拍や血中酸素濃度、血圧といった時間と共にダイナミックに変化する動的な生体信号を取得するイメージング応用である。静的な生体情報のイメージングでは、ダイナミックな変化が少ないために、撮像する速度は求められない。一方で、多点かつ細かなイメージの撮像を行う必要があり、高解像度や高感度といった特性がデバイスに求められる。一方、動的な生体情報のイメージングでは、1点もしくは数点での測定が求められること多く、静的な情報で必要だった高解像度を必要でない。しかし、血流のように常に変化をしているものを取得するため、高速でのイメージングがデバイスに求められる。近年、目覚ましい半導体デバイスの小型・軽量化が進むことで、スマートウォッチを代表としたウェアラブルデバイスに集積可能なイメージング素子の開発が行われてきた。既に製品化されている、スマートウォッチやリストバンド型のデバイスには、小型のLED素子と光センサが実装されており、光センサが皮膚に直接接触することで、脈拍や血圧、血中酸素濃度といった生体情報を、連続的に長期間モニタリングすることが可能となっている1-3)。また、ウェアラブルデバイスの装着負荷をさらに減らすために、センサ部分のフレキシブル化や小型化の研究も進んでいる。フレキシブルなセンサは、従来の固いセンサと比較して、材料自身がやわらかいために、生体曲面に追従するようにデバイスを装着することができる。その結果、センサと肌の密着性が向上し、脈拍や血中酸素濃度といった生体信号を、日常生活の中で精度よく測定することが可能になる4-6)。本研究では、我々が近年開発したフレキシブル有機イメージセンサ技術について紹介をする。我々の開発したフレ東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻( ■ ■年度奨励研究助成(若手研究者枠)■■■ ■ ■ ■■■■ )准教授横田知之2.フレキシブル有機イメージセンサキシブル有機イメージセンサは、これまでのフレキシブルイメージセンサとは異なり、高解像度と高速撮像を同時に実現することに成功した。その結果、指紋や静脈といった静的な生体情報と、脈波などの動的な生体情報を1枚のセンサで同時に計測することが可能である。 ・■作製方法図1に我々の開発したフレキシブル有機イメージセンサのデバイス構造図とデバイス写真を示す。フレキシブル有機イメージセンサは、光センサとして近赤外光に高感度を有する有機フォトダイオード、セル選択のための素子として低温ポリシリコン(LTPS)薄膜トランジスタのバックプレーンを集積化することで構成されている(図1)。開発したフレキシブル有機イメージセンサは、セルピッチが50 µm、解像度が508 dpiとなっており、総ピクセル数が252 ×256であり、受光総面積が12.6 ×12.8 mm2である。光センサ部として用いている有機フォトダイオードは、近赤外光領域の850 nmにおいて最大感度を示しており、さらに大気安定な逆型構造を用いることで、大気中での高い信頼性を実現している。図1:フレキシブル有機イメージセンサ− 425 −レーザーリフトオフプロセスを用いたフレキシブル有機イメージセンサの開発
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