図3パルスエネルギー3.47 nJ,走査速度60 μm/sのレーザー照射条件における単結晶窒化アルミニウムの選択的レーザー化学エッチングの(a)レーザー照射後且つエッチング前と(b)レーザー照射後且つエッチング後図4六角寸法(エッチングレート)とレーザー加工パラメータの関係図3に示したパルスエネルギー3.47 nJ,走査速度60 μm/sのレーザー照射条件における単結晶窒化アルミニウムの選択的レーザー化学エッチングの(a)レーザー照射後且つエッチング前と(b)レーザー照射後且つエッチング後の画像結果に着目してみると,正六角形に近い形状の変化が見られる.つまり,はじめに照射したレーザー照射点が円形に形成されていることを考慮すると,方位選択性があったと言える.これは,これまで先行研究で報告されてきたシリカガラス,サファイア,フッ化カルシウムでは観測されなかった現象であり(円形から円形への等方的形状拡大変化),現在のところ,窒化アルミニウム特有の現象であると考えられる(円形から正六角形への異方的形状拡大変化).図4にはエッチングによって成形される六角形状の寸法変化において,その加工パラメータであるレーザー出力と走査速度の依存性を示した.パルスエネルギーが上昇すると,六角対辺aの長さが向上していることがわかる.走査速度が低下すると,単位時間あたりの堆積エネルギーが上昇するため,六角対辺aの長さがより低エネルギーでも上昇しており,走査速度0.3 mm/sと0.15 mm/s,パルスエネルギー10 nJ以下の実験データを比較すると,走査速度0.3 mm/sは2倍のパルスエネルギーとなると,走査速度0.15 mm/sの結果とほぼ一致している.つまり,単位時間あたりの堆積エネルギーが一致している照射条件では,エッチング後の幾何学的形状は一致すると言える.一方で,15 nJ以上のより高いパルスエネルギーの領域となると,この因果性はみられず,エッチング速度は低下する方向に進むが,これはレーザー照射による影響領域よりもエッチングされた領域が広範囲になり,レーザー照射効果の影響が小さくなったことに由来すると考えられる.この仮説は,走査速度0.03 mm/sの実験結果において六角対辺aの長さが急激に飽和することからも裏付けられ,特定の閾値堆積エネルギー以上のレーザー照射条件では,空間的な影響領域サイズを拡大できなくなると考えられる.また,レーザー照射後に表面に幾何学的な損傷が観測されなかった照射フルエンス以下の照射点では,エッチングによる六角形の特徴的な形態変化は観測されなかった.これは,エッチング変化の起点が石英ガラスやサファイアなどの結晶状態変化ではなく,レーザーによって形成される物理的な形状変化であることが示唆される.また,単結晶窒化アルミニウムはc面とm面のものを用意し,双方の結晶軸のサンプルを用いてレーザー照射/ウェットエッチング工程を施したが,m面に関しては照射方向に対して,c面とは異なる形状は形成された(エッチングはバルク内部に垂直に形状変化しなかったため,レーザー走査型顕微鏡では観測不能であった).これらの形状変化の傾向はウルツ鉱型結晶(六方晶系)の単位胞に由来すると考えられる.本研究では,選択的レーザー化学エッチング法を用いて,単結晶窒化アルミニウムの精密な加工方法を示した.c面方向からの加工には,幾何学的に六角形上の方位選択制限を受けるが,加工精度はマイクロスケール以下で保証されることがわかった.また,レーザーの出力と走査速度をパラメータとし,その高精度な加工形状の大きさを制御することが可能であった.このレーザーによる形状操作性は単結晶窒化アルミニウムの加工法として,形状に制限がある一方で,形成された形状の精度がこれまで報告された単結晶窒化アルミニウムの加工法の中で最高精度を示すものであった.今後は,放射線科学への応用だけでなく,レー− 414 −
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