天田財団_助成研究成果報告書2024
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1.研究の目的と背景キーワード:選択的レーザー化学エッチング,窒化アルミニウム,高レーザー耐性材料素粒子探索や放射線治療,非破壊X線検査などに用いられている加速器技術はその大きさ故に,汎用性が低く,産業的な或いは学術的な利用機会の制限が存在する.加速器の大きさを決めているのは,加速器構造の内部に溜められている電磁波エネルギーの周波数であり,従来技術のギガヘルツ帯の高周波では,数十センチメートルから数十センチメートルほどのサイズを持つことになる.一方で,近年の光技術と微細加工プロセス技術の発展により,マイクロメートルスケールの加速器技術が提案され,原理実証されている1).この技術はレーザー光をベースとしたパワーソースを用いて微細な構造の中で光と電子を相互作用させることで粒子加速を行うものである.しかし,この微細な構造を形成するための微細加工プロセス技術が主に半導体材料への適用を想定したものであり,プロセス全体がシリコンやシリカガラスなどのいくつかの材料と形状に最適化されている.つまり,加速器技術への応用上,他に物性値の優れた材料があったとしても,その材料の加工を行うことは困難であり,その代表的な材料として,単結晶窒化アルミニウムがある.単結晶窒化アルミニウムは絶縁性(AC電圧の場合50 –68 kV/mm,またDC電圧の場合84 –151 kV/mm)と熱伝導率(285 W/(m K))が高く2),光学的透過性が高いことで様々な分野での応用が期待できる.特に,その光学的透過性は深紫外線領域から遠赤外線領域までと広範囲であり,波長10μm帯の光に対しても,光学的侵入深さは20 mmほどと応用上魅力的な材料であると言える.しかし,より高性能な特性を持つ単結晶材料はその加工の困難さに由来して,幾何学的な成形構造に制約がある.本質的に脆性材料であるため,強い外力が加わるとマイクロ欠陥や亀裂進展,また,バルク内部には残留応力が形成される.これらの欠陥,亀裂,残留応力が極めて小さい加工技術を実現するために,本研究では,選択的レーザー化学エッチング法を用いて,単結晶窒化アルミニウムの精密な加工を目指す.これまで,誘電体材料の加工における選択的レーザー化学エッチング法の適用材料としては,石英ガラス,サファイア,フッ化カルシウム,イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)があり3),いずれの材料に対してもサブミクロンからミクロンスケールにおける精密な加工を実現してきた.一方で,選択的レーザー化学エッチング加産業技術総合研究所計量標準総合センター(2021年度奨励研究助成(若手研究者枠)AF-2021234-C2)主任研究員澁谷達則工には材料の特定の結晶方位,もしくはレーザー照射箇所に対して選択的に加工レートが向上する,という実験的な知見が得られているが,まだまだ実験的及び理論的なアプローチが不足しているため,本研究の対象となる窒化アルミニウムへの選択的レーザー化学エッチング加工の適用可能性は不明であった.参考となったのは,バルク上の窒化アルミニウムのウェットエッチングに関する先行研究であり,水酸化カリウム水溶液を用いることで結晶方位の選択性が向上するという報告がなされている4,5).J. R. MilehamらとD. Zhuangらは,それぞれ独自に窒化アルミニウムに対するウェットエッチングの評価を行われており,これらの先行研究の中で,c面を表面とする場合のエッチングの際には急速にエッチングレートが高まるが,m面からの場合にはほぼエッチングされないことが示された.これらの報告例から本研究でもc面とm面の試料を用いることで選択的レーザー化学エッチング法の適用性について議論することとした.さらに先行研究から,エッチング溶液として,水酸化カリウムを主成分とするAZ400K developerを用いることとした.図1には,選択的レーザー化学エッチング法の概念図を示す.図1選択的レーザー化学エッチング法の概念図− 412 −単結晶窒化アルミニウムの3次元マイクロ加工技術の開発次世代量子ビーム技術に向けた

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