天田財団_助成研究成果報告書2024
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促進し、ターゲット表面にAlO分子を生成する。この技術は、完全に常温プロセスでAlとOの比率が2対3の優れたAlO層を実現することが報告されている。この方法の利点は、ALD Al2O3プロセスに比べてスパッタリングプロセスが基本的に加熱を必要としない点である。 本研究では、SiO2の常温プロセスによる透明接合技術を開発目標とする。その手法として、表面活性化に基づく接合プロセスを対象とする。表面活性化接合は、接合表面の有機吸着層や酸化物をイオンビーム等で除去し、活性化した表面を接触させることで接合を得る。これにより、金属や半導体の常温接合を達成しているが、SiO2に対しては有効性が低いことが知られている。一方で、イオンビームによる表面活性化だけでなく、10 nm以下のSi薄膜を介在させることで、活性なSi原子を介した接合が提案された。これにより、SiO2同士の常温接合が報告されているが、成膜したSiにより接合界面の透過性が低下することが知られている。 これに対し、本研究では、Si中間層ではなくAl2O3を接合界面に用いる表面活性化接合を調査する。Al2O3は、優れた光学特性を持つため光学素子への応用に有用であり、実際にAl2O3を介した光学アプリケーション用の高温での接合が報告されている。また、表面活性化接合によるAl2O3(サファイア)の常温接合も報告されている3)。そのため、SiO2についても、Al2O3を表面に成膜することで、表面活性化に基づくAl2O3を介したSiO2の常温接合が期待される。本研究課題では、このAl2O3を介したSiO2の常温接合達成と、その接合メカニズムの解明を目標とする。 これらの技術的背景に基づき、本研究では、AlO中間層を用いた常温でのガラス直接接合のための改良型SAB法を開発する。Si堆積の代わりに、イオンビームスパッタリングを用いてAlO層を堆積し、Arイオンビーム照射によって接合面を活性化する。接合は接合強度と光学特性の観点から評価される。さらに、比較のためにSi中間層を用いた接合も実施する。 2.実験方法 ■ ・■■材料■直径4インチでアルカリフリーのアルミノシリケートガラスウエハ(厚さ500μm)を日本電気硝子株式会社から入手した。 ■ ・ ■接合プロセス■基板のペアを5 × 10⁻⁵ Paの真空チャンバーに導入した。まず、ガラス表面に加速電圧1.3 kV、電流200 mAのArイオンビームを照射した。次に、ArとO2のイオンビームスパッタリングを用いてAlターゲットからガラス表面に約5 nmのAlO層を堆積させた。その後、最初の表面活性化と同じ条件でAlO表面に再度Arイオンビームを照射した。AlOの堆積および二回目の表面活性化は、最初3.結果 の表面活性化と同じイオンビーム条件下で行われた。その後、接合面を接触させ、637 kPaの荷重を5分間加えた。全てのプロセスは真空中かつ室温で行われた。 接合強度は、ブレード挿入試験により一方の剥離面の表面エネルギーとして測定され、これは接合ウエハ間のクラック進展中のエネルギー放出率の半分に相当する。接合強度の計算はMaszaraの方法に基づいた。 光学特性は、UV–vis–NIR分光光度計UH4150自動測定システム(日立ハイテクノロジーズ)を使用して測定した。透過率の測定では入射角90°、反射率の測定では入射角8°であった。サンプリングレートは各測定で1 nmであった。 ガラス基板の接合強度はブレード挿入試験を用いて測定した。図1は、Si中間層とAlO中間層を用いたSABによる接合強度を示している。Si中間層を使用したすべての接合ガラス基板は、ブレード挿入中に基板の破壊を示した。接合強度は偏差なしで2.0 J m−2以上と評価され(n=3)、これは先行する報告の結果と一致する。 一方、AlO中間層を使用した接合ガラス基板は、1.32 J m−2の接合強度を示し、標準偏差は0.21(n=5)であった。一般に、接合強度は後工程、特にダイシングプロセスに耐えるためには1.0 J m−2以上である必要があるとされている。したがって、提案されたAlO中間層を用いた接合方法により、十分な接合強度が達成されている。 Si中間層を用いたSABと比較するために、ガラス基板をSi中間層を用いて接合した。Si中間層を用いた接合プロセスは、AlO層を使用した接合と中間層の堆積を除いて完全に同じであった。Si層はArイオンビームスパッタリングでSiターゲットから堆積され、その後、堆積されたSi中間層がArイオンビームで活性化され、同じ真空チャンバーで接合された。真空レベル、イオンビーム、および接合条件は、AlO中間層を用いた接合と同じであった。 ■ ・ ■接合の評価■XPS分析は、JEOL JPS-9200を使用し、Mg X線源および静電半球分析器で行われた。サンプルには加速電圧10 kV、放出電流10 mA、入射角45°でX線が照射された。収集されたデータはC1sピーク284.6 eVを使用してキャリブレーションされ、Gaussianタイプの関数を用いてIgor Pro8マルチピークフィット(ヒューリンクス株式会社)を使用してカーブフィッティングを行った。 STEM-EDX観察には、FEI Helios 660デュアルビームシステムを用いてフォーカストイオンビームでラメラサンプルを作製した。サンプルはJED-2300 DualX(JEOL)STEMシステムで加速電圧80 kV、ビームスポットサイズ0.2 nmで撮像され、JED-2300T(JEOL)のEDXを用いて分析された。 XPS分析は、AlO中間層を介して接合されたガラス基板のペアの、元のガラス表面と脱離後の表面に対して実施AlO層を使用した接合は以下の通りで行われた。ガラス− 407 −

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