天田財団_助成研究成果報告書2024
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キーワード:超短パルスレーザー,高出力レーザー,薄ディスクレーザー 2 cm(添加濃度) では、製品の高性能化・軽量化といった需要に加え、持続可能性を見据えた機器の高効率化や高度化が求められている。そのためにはこれまで量産工程では行われてこなかった高付加価値な加工の需要が高まっている。具体的には金属やセラミックなどに対する微細な穿孔や溶接、超撥水や低摩擦などの特殊な表面加工、樹脂やガラスなどの透明媒質の内部加工、3Dプリンターによる微細積層加工などである。これらの加工を産業的に可能とするツールが高出力な超短パルスレーザーであり、現在幅広い分野での導入が進んでいる。中でもYb添加薄ディスクレーザーをベースとしたモード同期発振器は現代において最も高い平均出力を得られる超短パルスレーザーの生成法である。薄ディスクレーザーとはその名の通り厚みを数百m程度に薄くした媒質をヒートシンクに接合し、背面冷却構造を用いるレーザーであり、媒質の熱的影響と非線形光学効果を抑えられることから現在の高出力超短パルスレーザーの主流形式である。これまでYb:YAGやYb:Lu2O3などの材料を用いた薄ディスクモード同期レーザーにて~100 fs程度までの短パルス化が報告されているが [1-3]、材料固有の利得帯域幅(Yb:YAGで9nm, Yb:Lu2O3で13nm )により、短パルス化の流れは世界的に数年ほど足踏みが続いている。上記のような理由から本研究では、薄ディスク超短パルスレーザーの更なる短パルス化を目指し、広帯域な利得媒質であるYb添加タングステン酸塩系利得媒質(Yb:KREW, Yb:KRE(WO4)2 )を用いた薄ディスクモード同期レーザーの開発を目指す。 表1■代表的なYb添加媒質の物性値 利得媒質 蛍光帯域 FWHM(nm) 誘導放出断面積 熱伝導率(W/mK) 表1に代表的なYb添加利得媒質の物性値の比較を示す。1.研究の目的と背景 ■現代の小型電子機器、医療機器、モビリティなどの分野名古屋大学大学院■工学研究科電子工学専攻■( ■ ■年度■奨励研究助成(若手研究者枠)■■■■ ■ ■ ■ ■■ ) 助教■北島■将太朗■2.研究方法 ■具体的な研究方法として、①薄ディスク利得媒質モジュールの開発、②CWレーザー発振実験、③モード同期超短パルスレーザー発振実験、という3ステップで研究を進めた。以下に詳細を記述する。 い誘導放出断面積と広い利得帯域幅(20 nm)を併せ持つことから、高出力な超短パルスレーザーが得られると期待される媒質である。しかし本材料を用いた薄ディスクレーザーは2000年代に少数の報告があって以来殆ど研究がなされていない [4,5]。これはYb:KREWが比較的低い熱伝導率を持つことと、大きな熱膨張係数の異方性を持つことが原因であると考えられる。低い熱伝導率はレーザー媒質の温度上昇を促し、異方性のある熱膨張係数は温度の上昇に伴い結晶を非対称に歪めてしまうため、高出力なレーザーを目指すうえではこれらは大きな障害となりうる。本研究では新たな薄ディスクのヒートシンクへの接合法と、共振器による熱的波面歪みの補償を用いることで、これらの課題を解決し、高付加価値な機械加工に資する高出力超短パルスレーザーの開発を進めることを目的とする。  ■■■■薄ディスク利得媒質モジュールの開発■薄ディスク利得媒質モジュールは、結晶利得媒質を数100 mの厚さに研磨し、両面をコーティングし、ヒートシンクに接合を行うことで作製される。私はこれまでの研究でUV硬化樹脂を用いたヒートシンクへの独自の接合法を確立し、複数の材料にて励起密度6 kW/cm2、 出力200W以上の連続波発振を達成している [6,7]。薄ディスクの熱抵抗においてもっとも大きな要素となるのが利得媒質とヒートシンクの接合である。利得媒質やヒートシンクの熱抵抗には絶対に低減できない限界があるのに対し、接合の熱抵抗は原理的には限りなく小さくすることで可能である。このため接合方法の改善は最も重要な開発要素である。 本研究では更なる低熱抵抗を目指すために、まず温度と圧力を精密に制御できる接合装置の開発を行った。図1に作成した接合装置の写真を示す。装置は温度制御可能なヒーターと圧力制御可能なプレス機、そしてUV照射用LEDで構成され、接合部を温めつつ圧力をかけた上で接着剤を硬化させることができる。硬化前の接着剤は温めることで粘度が下がり、更に適切な圧力をかけることで均一かつ極小な接合層の厚みを実現できる。 2200 33..00 3.3 (5%) Yb:YAG Yb:Lu2O3 Yb:KGW 9 13 2.0 1.2 5.5 (10%) 12.5 (3%) -20) (10Yb:KGWはタングステン酸化物系の透明結晶であり、高− 401 −微細加工のための高出力・高繰り返し超短パルス光源開発

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