天田財団_助成研究成果報告書2024
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■■■緒言■ーマである.安全性を保持したまま軽量化を促進させるためには,これまで以上に材料の機械的特性を詳細に把握し,可能な限り安全率を小さくする極限的な設計が求められていくであろう. 板ばね用金属材では,冷間圧延に伴う加工硬化の発現によって弾性域が大きく拡張される.面内異方性が顕著に現れ,引張や圧縮などの負荷方向の違いに応じてその大きさが異なる4~6).現状,準静的なひずみ速度の𝜎𝜎に含まれる𝜎𝜎iの割合は明らかにされていない.材質や加工条件,さらには面内及び負荷方向の異方性に関する𝜎𝜎iを広的応力成分𝜎𝜎iとその面内異方性について評価する.なお, ■■非熱的応力成分𝜎𝜎iの評価■試験を行うことで,𝜎𝜎iの流動応力曲線を得ることが可能軸引張試験は10−6~10−7 /sのオーダーが限界であり,𝜎𝜎i𝜎𝜎と低ひずみ速度の𝜎𝜎を比較し,両曲線がどの程度一致するか調査することで,𝜎𝜎≈𝜎𝜎iの関係が成立するか定性的に𝜎𝜎0.2における𝜎𝜎iの定量的な評価を行うため,温度やひずみ外挿により𝜎𝜎iを評価する方法が提案されている8~12).信頼性の高い𝜎𝜎iを求めるためには,広範囲の温度とひずみ範囲に調査することは極限的な設計を目指すうえで有益な情報になるであろう.本研究では,冷間圧延が施された板ばね用りん青銅材を対象に,引張負荷における非熱本報告は,「小泉隆行:銅と銅合金,61(2021)130–134.」に掲載された内容を引用し,再編集したものである. 2■■実験方法■理論上,ひずみ速度を無限大まで低下させて単軸引張である.著者らの経験上,実験による低ひずみ速度の単を直接的に求めることは難しい.準静的なひずみ速度の評価できると考えられる. 速度の関数であるLarson-Millerパラメータ7)を用いて,速度による単軸引張試験結果が必要となる.ところが,再結晶温度域やそれ以上の温度域での実験結果が多く用いられているにも関わらず,温度変化による材料の組織変化が理論的に考慮されていない.この問題を解決するため,著者ら1)は室温での応力緩和試験とカーブフィッティングを用いて外挿により𝜎𝜎iを評価する方法を提案し信頼性の高い𝜎𝜎iを得ることができており,本研究においても同様の手法を用いて𝜎𝜎iの評価を行う.詳細についてた.巨大ひずみ加工材を対象とした先行研究1,2)では,キーワード:非熱的応力,熱的応力,冷間加工 最近,著者らは次世代の構造用材料と目されてきた工業用純金属の巨大ひずみ加工材において,新たな特性を発見した.それは,冷間で巨大ひずみ加工が繰り返された材料では,ひずみ速度依存性が著しく増加してしまう点である1,2).これまで示されてきたように,巨大ひずみ加工材では,準静的なひずみ速度(10−2~10−4 /s)でのら,10−7 /sオーダーでの低ひずみ速度では流動応力が著単軸引張試験において流動応力が増大する.しかしながしく低下することから,恒久的に静的負荷を受け続けるような用途において,必ずしも高強度材と見做すことはできない1,2).すなわち,準静的なひずみ速度の単軸引張試験のみでは,構造用材料としての適正評価を正しく行えない場合がある.構造用材料に必要な強度を考える場合,第一義的には静的負荷に対する恒久的な応力保持能力が求められる.仮に,環境温度や時間の変化によって,その能力が失われるのであれば,構造物や輸送機器の安全性は大きく損なわれてしまう.材料が有するひずみ速度依存性の影響を除去したうえで流動応力を評価することが求められる. 単軸引張試験で得られる流動応力𝜎𝜎は,式(1)に示すよ用に対応する非熱的応力成分𝜎𝜎iと,局所的な障害物との短い相互作用に対応する熱的応力成分𝜎𝜎∗の2つに分離することができる3). 𝜎𝜎=𝜎𝜎i+𝜎𝜎∗ 一般的に,𝜎𝜎iは温度や時間(ひずみ速度)に依存しないが,𝜎𝜎∗は原子の熱振動エネルギーの寄与を反映して,これらに強く依存することが知られている.𝜎𝜎iを評価する0.2%耐力(𝜎𝜎0.2)に対し,任意の安全率を用いて許容応力を決定するのが慣例であった.𝜎𝜎≈𝜎𝜎iとの仮定が前提にあうに,転位運動における大きな障害物との長距離相互作ことで,構造用材料の第一義的な強度である恒久的な応力保持能力を見積もることが可能であるが,実験で直接的に求めることは難しい.これまでの機械・構造設計では,準静的なひずみ速度の単軸引張試験から得られるったと推測されるが,この誤差が大きくとも,安全率が作用することで問題の顕在化には至らなかったと考えられる.近年では,カーボンニュートラルの実現に向けて,輸送機器の軽量化に伴う温室効果ガスの削減が重要なテ東京工業高等専門学校■機械工学科 ( ■ ■年度■奨励研究助成(若手研究者枠)■■■■ ■ ■■■■■■ )■(1) 准教授■小泉■隆行 − 374 −冷間強加工を施された構造用金属材料の 熱的強度と非熱的強度の分離に関する研究

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