1.研究の目的と背景2.実験方法キーワード:チタン合金,微小材料試験,ナノインデンテーション近年,地球温暖化の原因であるCO2の削減に向けて,輸送機器の軽量化が推進されているが,チタン合金は軽量で比強度が高いためその利用が増加している.チタン合金を構成する主な要素は,最密六方構造のα相および体心立方構造のβ相である.チタン合金は添加元素や熱処理過程によってミクロな組織構造が変化し,それに伴って力学特性も大きく変化する1~2).近年では,Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-0.1Si(Ti-6242S)やTi-5.8Al-4.0Sn-3.5Zr-0.7Mo-0.5Nb-0.35Si-0.06C(IMI 834)など,耐熱性を向上させたチタン合金も開発されており,航空機エンジンの高圧コンプレッサー部材に適用されている3~4).それらの合金は高温クリープ特性など巨視的な材料強度試験により高温下での有用性が評価されている.一方で,室温下においては,Dwell fatigue(応力保持を追加した場合の疲労特性)強度の低下が指摘されており,実際の疲労試験により実証されている5).このように,室温下であっても高温下であっても,耐熱チタン合金の材料強度特性に関して巨視的な材料強度試験により検証されてはいるものの,変形挙動や強化機構については,いまだ不明確な部分が多い.耐熱チタン合金の塑性変形挙動のメカニズムを解明するには,微視的な領域に着目し,単一の結晶粒および粒界の影響や固溶元素の分布等を考慮する必要がある.本研究では,微小試験片を用いた材料試験により,耐熱チタン合金であるTi-6242SおよびIMI 834の局所的な力学特性を評価し,塑性変形メカニズムを解明することを目指す.収束イオンビーム(FIB) 装置を用いて数十マイクロメートルサイズの微小試験片を作成し,引張試験や曲げ試験を行い,結晶粒のすべり系や粒界等の微細組織の影響について評価する.また,ナノインデンテーション試験により単一結晶粒の機械特性について評価する.本研究では,室温下および高温下での耐熱チタン合金の塑性変形挙動の違いについて検討する.また,室温下における耐熱チタン合金のDwell fatigue強度低下のメカニズムについて,微視的な観点から検討する.2・1微小試験片の作製FIB装置を用いて,複数個の結晶粒を含む数十μmサイズの微小試験片を作成した6).図1に作成した微小曲げ試産業技術総合研究所工学計測標準研究部門(2021年度奨励研究助成(若手研究者枠) AF-2021031-C2)主任研究員田中幸美験片および微小引張試験片を示す.曲げ試験片は,断面が正三角形状であり,幅が10 μm,長さが40 μmの試験片を作成した.また,引張試験片は,長さと幅がそれぞれ30 μmと10 μmになるよう作成し,グリップ部は微小引張試験機のグリッパー部にはめられるような形状を作成した.2・2微小材料試験微小試験片を作成後,チタン合金の微小曲げ試験および微小引張試験を行った.微小曲げ試験は,室温下では,保有のナノインデンテーション試験機(ELIONIX, ENT-2100) を,高温下では,大阪産業技術研究所で借用したナノインデンテーション試験機(Bruker, TI950 Triboindenter) を使用し,曲げ試験片の基部から30 μmの位置で押込み試験を行うことにより,曲げ試験を実施した.応力ひずみ曲線を取得するため,曲げ試験により得られた荷重変位曲線および曲げ試験片の形状から,応力とひずみを推定した.また,微小引張試験は,研究室が開発した微小引張試験機を利用して引張試験を行った.試験装置は変位制御方式で図1作成した微小試験片6)− 350 −マイクロ材料試験技術を用いた耐熱チタン合金の塑性変形機構の解明
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