天田財団_助成研究成果報告書2024
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2.実験方法の造形など,さらなる成果を求めるためには,より高い重力加速度で造形試験を行う必要がある.とくに,遠心機を高速回転させた際には,図2のシステム構成ではレーザの光軸がぶれてしまい,図3に示すとおり,造形台へのレーザ走査はサイクロイド状の誤差が生じてしまう.低回転数においてはガルバノミラーの制御によって誤差を補正できるものの,高速回転数となるとガルバノミラーの応答が間に合わなくなってくるため,光学的なシステム構成によって走査誤差をなくしたい.現行開発中の装置において,回転による誤差を大幅に低減する新たな光学システムを構築し,より高精度な造形技術の確立を目指す.図3サイクロイド状の走査誤差 ・■実験装置の概要本研究では,より実用的な高重力場3D造形装置の開発を目指し,図4に示す新たな試作機を構築している.回転軸を水平方向にすることで,回転速度をインプロセスに変更できるようになるため,サポート構造などの低密度化が求められる造形にも対応できる.また,万一の脱落事故時に部品が操作者側に飛ばなくなるので安全性を確保できるほか,設置スペースも削減しやすいなど,水平軸型の回転機構を利用した高重力場3D造形が得られるメリットは大きい.一方で,回転時に±1Gの変動が生じてしまう点は注意が必要だが,100Gレベルの出力を目指す機構開発においては,1%まで抑えられる誤差であり,造形プロセスの安定性に大きな影響を与えないと考えられる.本研究では,光軸のぶれを低減するための工夫について議論する.レーザ発振器の本体は重量が大きいため,回転部分に設置することは難しい.したがって,試作機の設計上,回転部分の回転軸に沿わせるようにレーザを入射させることで,回転軸上に設置されたガルバノミラーを介し,造形ステージにレーザを照射している.この工夫は垂直軸型の高重力場3D造形装置でも同様であり,ガルバノミラ10Gまでの高重力場でPBFを行う実験を通じて,スパッタの抑制,造形密度の向上,造形物機械強度の向上,7.5 μmの微細粉末による安定造形に成功するなど,PBFの技術革新を推し進める多様な成果を得ることに成功した3,4).しかしながら,先行研究の成果は開発した装置の性能によってプロセスに付与できる加速度の限界が10Gまでであり,より微細な粉末を利用した造形や完全スパッタレスーのように慎重に扱うべき電子機器を,高加速度場に設置しなくて済む点でも的確な機構設計といえる.しかし,回転軸と光軸がわずかにずれただけでも,図3に示したような走査誤差が生じるといった問題がある.図4水平軸型高重力場■■造形装置の概略図そこで本研究では,図5に示すような,光スリップリング機構を開発する.回転軸とレーザ光路が一致しにくい理由としては,光学デバイスの単純な設置誤差だけではなく,ビーム径がそもそも小さいことも挙げられる.ビーム径が小さいままでは,光軸と回転軸を一致させることが難しく,結果として図3に示した走査誤差を小さくすることが難しい.したがって本研究では,静止座標系から回転座標系へレーザが照射される区間で,ビーム径を太くし,回転系内でレーザを絞り直す,光スリップリングと名付けた機構の開発を目指した.図5光スリップリングの概要.回転座標系に集光用光学系を組むことで,回転ブレや位置調整ミスの影響を大幅に低減する.− 339 −

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