天田財団_助成研究成果報告書2024
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1.研究の目的と背景3Dプリンタはアディティブマニュファクチャリング(AM) として世界的に研究が行われる中で,金属材料へ対応可能な造形方式は産業応用が始まっている.とくに粉末床溶融結合法(PBF: Powder Bed Fusion) はAMの中でも造形精度の高さや技術的参入障壁の低さから,極めて実用的AMの活躍は産業界のみではなく,宇宙開発においても活発に議論されている.2020年代に入り大々的に開始されたアルテミス計画や火星有人着陸計画は,従来プロジェキーワード:粉末床溶融結合法,金属■■プリンタ,高重力場な造形方式として,発展途上国から先進国まで巻き込んだ世界的な開発競争が繰り広げられている.PBFについて,造形物内部に空孔などの欠陥が残ったり,靭性が低くなりやすかったりといった技術課題の解消を目指す研究も多く行われているが,造形精度を向上させるといった付加価値の向上を目指す提案はあまり多くない.PBFにおける造形精度は,造形に利用する粉末の粒径に大きく影響を受け,造形精度を向上させるためにはより微細な粉末を利用すべきだが,現状では30 μm程度の粒径がPBFに利用可能な粉末の最小サイズと考えられている.30μmよりも小さな粉末は凝集しやすく,簡単に飛散するため,PBFで安定的に利用することが極めて難しい.したがって,先進国と発展途上国の間で技術格差が生じにくい点からも,国際市場をリードすべく,多くの国々で国家プロジェクトとしてAMの開発に注力しているといえる.クトよりも長期間の宇宙滞在が求められ,宇宙船の修理・保全のために微小重力場で利用可能なものづくり技術が求められる.したがって,切りくずなどの廃棄物が生じず,省資源性や省スペース性に優れるAMは,宇宙開発プロジェクトに適していると考えられている.しかしながら,微小重力場でのAMでは,プロセスの不安定化が課題となり,NASAが2014年に国際宇宙ステーションで3D造形試験を行った結果を発表したり1).中国やドイツがパラボリックフライト試験による微小重力場AMの実験結果を発表したりしている2)が,重力加速度の低さがプロセスに与える悪影響が甚大であることが明らかになってきている.なお,日本では国際的な宇宙計画に参画する動きは見せているものの,微小重力場用のAMについて類似研究の報告がない.こうした背景に対して,本研究は微小重力場のAMの技術課題を,技術的メリットに転換する高重力場AMの開発を目指す.図1に示すとおり,微小重力場でPBFを行う場合に生じ得る技術課題は,粉末の浮遊,劇的なスパ慶應義塾大学システムデザイン工学科( ■ ■年度一般研究開発助成■■■ ■ ■ ■■■■ )准教授小池綾ッタ,浮力が生じないため残留気泡の増加などが考えられる.しかしながら,これらの技術課題は微小重力場特有の問題ではない.自然重力場においても,粉末が十分に充填できない,スパッタが激しく生じる,小さな気泡が造形物内部に残るなど,同等の技術課題が低度に生じている.この対応関係から,本研究では,微小重力場の問題が1G場において緩和するなら,さらなる高重力場では,PBFが抱えている技術課題のほとんどが解決すると考えた.高重力場では,粉末を再高密度で充填した層を形成でき,スパッタが生じず,大きな浮力によって微細な気泡すら残さない高密度造形ができると考えられる.この仮説を立証するために,先行研究では図2に示すとおり,遠心機とPBFユニットを融合した,高重力場3D造形装置を世界で初めて開発した.図2高重力場■■造形装置の概要図図1重力レベルの違いによる■■■の特徴.− 338 −高重力場を援用した粉末床溶融結合法の高機能化に関する研究

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