図3.(上)コヒーレント非線形ラマン分光のエネルギーダイアグラムと計測の概念図.同時照射されるω1光とω2光の差周波(ω1–ω2)がフォノン振動数Ωと共鳴した際に,フォノン励起される.(下)本研究で目指す,コヒーレント非線形ラマン分光の表面界面計測への応用展開の模式図. また,位相情報に着目したヘテロダイン干渉の解析法を構築することで,図4(b)のように得られた干渉信号から界面分子由来のラマン信号(Imχ(3)スペクトル)を抽出する解析ノウハウを新たに構築した.我々は,極薄表面界面検出感度の有無を検証するためのモデル系として0.5nmオーダーの厚さのベンゼンメタンチオール自己組織化単分子膜に着目し,本分光手法と解析法を適用したところ,サブナノメートルの界面分子層由来のImχ(3)非線形ラマンスペクトルを世界初で取得することに成功した(図5).ま(b)). 図2.レーザー媒質とヒートシンク基板の表面活性化接合に関する現象論的描像2). そこで本研究では,バルクによる吸収ロスが避けられない『赤外・テラヘルツ光による格子運動の1光子直接励起』に立脚した従来のSFG分光の計測方法論を見直し,吸収ロスなくバルクを透過できる2種の可視・近赤外領域の光(ω1光,ω2光)の多光子過程を用いて,表面界面系の格子振動(Ωvib)を共鳴励起する分光方法論の開発に取り組んだ. 2.実験方法・結果 幅広い帯域の格子振動を励起するために,一般的には広帯域(スーパーコンティニューム)近赤外レーザー光を構築することが望ましい.しかし,本研究の対象は,透明基板(絶縁材料)であるAl2O3(サファイア)及びSiO2, Nd:YAGであるため,金属の表面上での振動分光の際に顕著に発現するような局所光電場の顕著な増強効果を得ることができない.一般に,絶縁基板は反射率も低く,表面界面分光には不利な物質系となる。スーパーコンティニューム光は幅広い振動数領域を対象とした振動分光を一度に行う際には有利であるが,特定の振動モードのコヒーレントラマン励起(図3)に直接関与する波長領域の光成分の実効的なパルス強度がnJオーダーと低くなる欠点がある.そこで本研究では,「スーパーコンティニューム光よりも3桁程度強いμJオーダーで特定の表面界面振動モードの強ラマン励起が可能」な近赤外波長可変光学系(近赤外オプティカルパラメトリック増幅系)の構築を行った. 本研究では,この光源をω2光として用い,透明絶縁材料群に対しても高感度な表面界面振動分光を展開可能とする非線形コヒーレントラマン分光法の開発を行った.特に,表面・界面観測を可能にする高次非線形ラマン分光計測法の開発・高度化のために,従来型のコヒーレントラマン分光の計測スキームである2-パルス法を見直し,3-パルス法を採用した新たな時間遅延非線形ラマン計測スキームに着目した(図3).このスキームにより,周波数領域分光法と時間領域分光法の両スキームを融合させた非線形ラマン分光スキームを確立することに成功し,表面界面以外のバルク領域から生じるバックグラウンド信号を4桁以上低減させることが可能となった(図4(a)).さらに,強度を適度に調整したバックグラウンド信号と表面界面由来の信号のヘテロダイン干渉を利用することで,表面界面由来の振動応答信号が増感されることを確認した(図4 − 331 −
元のページ ../index.html#333