天田財団_助成研究成果報告書2024
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ここで,λ及び,mはそれぞれ光の波長及び,干渉条件に対応する自然数である.薄膜干渉によって強め合う光の キーワード:レーザー加飾,立体物,ステンレス鋼 文化が受け継がれ,これらの営みは,今日,県の経済を牽引する重要な産業に至っている.中でも関市は,ドイツのゾーリンゲン,英国のシェフィールドに並ぶ世界有数の刃物産地であり,「関の刃物」ブランドは,世界的に認知されている.近年,刃物産業界のトレンドは,北米,欧州等,海外市場を対象として,実用的な機能に加え,デザイン性を重視した刃物開発にシフトしている.色や模様など装飾機能の付与は,製品の付加価値を向上させるとともに,芸術的価値を創出している. ■ステンレス鋼等の金属表面に図柄を装飾する技術的手法としては,塗装や水圧転写等が一般的である.しかし,これらの着色技術は,顔料を金属表面に塗布するため,ステンレス鋼特有の金属光沢が失われるほか,化学的処理を伴うことから廃液処理等,環境負荷の課題がある.我々は,金属の質感を活かしつつ化学物質を一切使用しない金属への着色技術として,レーザーを用いた加飾システムの開発を行ってきた1).このシステムでは,レーザーによって数十nm~数百nmの厚みの酸化被膜を形成し,その面積を制御することで多彩な色の表現を実現している.図1は,ステンレス鋼刃物のハンドル部分に,和柄の文様を装飾した試作例であり,金属特有の光沢を活かした加飾が施されている.しかし,開発したシステムがレーザー加飾できる形状は平板に限られており,実製品に応用するための課題が残されている.これは,レーザーによって明瞭な着色を得るためには,レーザーの照射熱量を一定に保持する必要があり,焦点距離を固定していることが要因である. ■そこで本研究では,立体物にも適用可能なレーザー加飾システムを提案する.具体的には,システムに移動機構を取り付け,立体物の形状に応じてレーザーの照射角度と焦点距離を一定に保持するシステムである.本稿では,レーザー加飾システムの構成と段差や傾斜のある簡易な立体物を対象とした実施例について報告する. 2.レーザーを使用した金属表面の発色機構 従来研究において,出力,走査速度等のレーザーパラメータが酸化被膜の膜厚に影響を及ぼすことが明らかにされている2~4).レーザーを使用した金属表面の発色機構を概説する.図2に薄膜干渉モデルを示す.図中のn1,n2,n3はそれぞれ大気,酸化被膜及び,ステンレス鋼の屈折率,dは酸化被膜の膜厚を表している.ステンレス鋼表面にレ1.研究の目的と背景 ■岐阜県では古くから木工芸,美濃和紙,陶磁器等の伝統ーザーを照射すると,高温酸化によってCr,Feを主成分とする酸化被膜が形成される5~8).大気中から酸化被膜にθ1の角度で入射する自然光は,酸化被膜表面で反射する光とθ2の角度で酸化被膜の中に進入する光に分離する.このとき,入射光は屈折率の小さい媒質から大きな媒質に入射して反射すると位相が180°反転する性質がある.酸化被膜表面で反射する光と酸化被膜を透過して金属表面で反射する光の双方の位相が反転する.図2ではこの位相が反転した光を破線で表している.これら二つの光が干渉し強め合う条件は波長の整数倍になるときであり,式(1)で表される9). 波長は,酸化被膜の屈折率と厚さによって決定され,この酸化被膜表面で発色現象が見られる. 3.提案システム ■・■■システム構成■図3にシステムの外観を示す.レーザー加工装置は,縦700 [mm]×横800 [mm]×高さ500 [mm]の加工ボックスを2n2dcosθ1 = mλ岐阜県産業技術総合センター■金属部 主任専門研究員■田中■等幸 ( ■ ■年度■一般研究開発助成■■■■ ■ ■ ■■■■ )■図1■ナイフハンドルの試作例 図2■薄膜干渉モデル (1) − 325 −微細酸化膜構造形成による金属立体物へのレーザー加飾

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