天田財団_助成研究成果報告書2024
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1.研究目的と背景キーワード::純銅,選択的レーザ溶融法,青色半導体レーザ金属の付加製造技術(Additive Manufacturing: AM)は,3D-CADデータを元に金属粉末から3D形状の製品を直接造形できる加工方法である.なかでも熱源にレーザを用いた手法は,レーザ金属積層造形法(Selective Laser Melting :SLM)と区分けされている.SLM法は,レーザを照射して,金属粉末を溶融・凝固して一層毎に2D形状を作り,これを繰り返し積み上げて3D形状を形成する.そのため,従来の切削加工や塑性加工,鋳造加工では製造出来ない複雑形状の製品を造形できる.これらの特徴を生かして,最近では,金型や機械部品の試作・開発,小ロット部品の製造,航空宇宙分野のブラケットや燃料噴射装置,ケーシングなど,医療分野ではカスタムオーダーメイドが必要となる人工関節等の整形外科用インプラントや,歯科用ブリッジなどが応用例として挙げられている.造形可能な材料には,Ni系合金ではインコネルやハステロイ,鉄系ではステンレス,マルエージング鋼,その他の非鉄系金属ではチタン,チタン合金,アルミニウム合金など数多くの材料が報告されている1~4).アメリカ・ローレンスリバモア国立研究所のグループは,SLM法における粉末の溶融凝固現象を,数値計算を駆使して詳細に解析し,レーザが粉末に照射された時に発生するスパッタリングの発生機構を解明している5).さらにこれら数値計算結果を基にステンレス鋼316Lを造形した結果,通常のステンレス鋼(SUS316L)の2~3倍の強度を有し,且つ従来のステンレス鋼の延性と同等の値を併せ持った造形が出来たと報告している.その一方で,高反射材料である銅の造形に関する報告は少ない.銅は,図16)に示す様に従来のレーザ波長である1µmの吸収率は僅か10%と低いため,従来のSLM法では高品質な造形を行うことが難しかった.銅の積層造形においては,ドイツのConceptLaser社が銅合金の造形を,Trumpf社が緑色レーザを用いて純銅の造形を行ったと報告されている.一般に銅の光吸収率に関しては,波長が短くなるにつれて高くなり,波長400nmの青色光に対する純銅の光吸収率は約60%と近赤外線レーザの波長1µmと比べると約6倍高いことが知られているが,高温領域での光特性に関しては不明な点が多い.Spiszらが純銅に対する光吸収率の温度依存性を明らかにしている7).波長■■■■■■のレーザを純銅基板に照大阪大学接合科学研究所レーザプロセス学分野(2021年度一般研究開発助成AF-2021205-B2)准教授佐藤雄二2.実験方法射した場合,室温(21℃)での反射率は96%であるのに対して200℃では76.3%と大きく変化する.つまり,レーザ照射による基板温度の上昇に従い,基板に吸収されるエネルギーが変化する.しかし,高温領域での反射率に関してはその性質を十分理解するに至っていない.そこで本研究では,1400℃まで加熱可能で且つ雰囲気が制御可能な反射率測定システムを開発し,化学的変性,表面形状の評価を併せた銅の光反射率の測定を行った.さらに本結果を基にレーザによる銅の積層造形を試み,レーザ波長が造形品質に及ぼす影響を明らかにする.2・1高温下における銅の反射率測定図2に高温下におけるサンプル表面の相対反射率測定概略図を示す.試料には,Φ9.5mm,表面粗さRa<5nmの純度99.5%の銅板を用いた.加熱プロセスには,1500℃まで加熱可能な真空ヒーター(BHS-1GR-P-MAX1400℃テルモセラ製)を用い,昇温速度26℃/minで800℃まで銅板を加熱した.光源には,波長450nmと980nmの半導体レーザを用いた.銅板の反射前と反射後のPDの出力比率を計測し,各ミラーにおける出力減衰は,アルミミラーに対する銅の相対反射率で補正した.加熱過程では酸化を防ぐため真空ポンプを用いて10Paまで減圧した後,1.0×105PaにArガス(99.9999%)を充填し,これを3回繰り返した後,大気圧下でArガスをフローしながら試験を行った.図1銅の光吸収率− 304 −高輝度青色半導体レーザを用いた金属積層造形法による銅の3D造形

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