天田財団_助成研究成果報告書2024
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キーワード:フォトニックタイムストレッチOCT,フェムト秒ファイバレーザー,微細加工 い高速イメージング技術の開拓に取り組むことである.開発した高速イメージング技術は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のレーザー加工やレーザーピーニングにおける金属材料にレーザーを照射している最中の金属の内部状態を可視化し,その物理機構に迫り,国内のものづくり産業に貢献することが期待される. 料への利用も拡大しつつある.しかし,従来技術を用いてCFRPを加工する際にその高い強度が問題となり,短時間で細かい穴開けや切断が困難とされており,レーザーによる精密加工への期待が高まっている.一方,レーザーピーニングとは,金属材料の表面にレーザーを照射したときに生成される局所的な衝撃波を利用して,表面に圧縮の残留応力を付与する技術であり,原子炉構造物の応力腐食割れを防ぐ技術である.これらの加工技術に関しては,レーザーの入射条件を詳細に変化させて最適パラメータの探索を行う研究を中心に進められてきた.そのため物理機構に関しては不明瞭な点が多い.レーザー照射中の材料内部の変化をリアルタイムで計測して,物理機構を理解することができれば,これらの材料加工物理に有益な情報を提供することが期待できる. 材料表面付近の内部構造を非接触かつ非破壊でイメージングできる技術のひとつとしてOCTがある1).OCTの最大の特徴は深さ数ミリの領域を数10 µmの分解能で断層像を構築できる点にある.OCTの基本原理は白色光マイケルソン干渉計であり,光源のスペクトル幅を広げれば,深さ方向の分解能は向上し,スペクトル幅を200 nmまで広げると深さ方向の分解能は2 µm以下になる.現在,高速動作が可能なOCTとしてフーリエドメインOCTがあり,これには回折格子とラインセンサーで構成される方式と波長掃引光源と単一光検出器で構成される方式が存在する.しかし両方式ともに高分解能化と高速動作を同時に実現することはできない.分光器を用いる方法は高い分解1.研究の目的と背景 ■本研究提案の目的は,フォトニックタイムストレッチ(Photonic Time Stretch:PTS)技術を用いてMHzフレームレートの速度で動作可能な光干渉断層計(Optical Coherence Tomography:OCT)の開発を目指した偏波保持ファイバレーザーの開発を行い,従来技術では実現できなCFRPは高い強度と軽さを併せ持つ材料であり,航空機や船舶などの産業分野で活用されており,近年では建築材同志社大学■理工学部電子工学科■( ■ ■年度■一般研究開発助成■■■■ ■ ■  ■■■■) 教授■鈴木■将之■能を実現できるが,ラインセンサーを用いるためフレームレートは数100 kHz程度に制限される.一方,波長掃引光源を用いる方法は,高速動作は可能であるが,光源の共振器内のミラーを高速動作させるため,波長のモードホッピングが生じる.その結果,信号処理が複雑となり,高速動作時において深さ方向の高分解能化が極めて困難である.一方,レーザー加工においては,1ショットまたはいくつかのパルス列を短い時間で照射する(バーストモード)場合が多い.このような現状において,レーザー照射条件に対応したフレームレートで内部構造変化を観察するためには,高い深さ方向の分解能を維持しながら高速動作を同時に満たすことが望まれる2). この従来技術の問題点を解決するために,シングルピクセルの光検出器を用いて超高速で分光データが取得できるPTSに着目し3, 4),このPTSを回折格子とラインセンサーに置き換えた新たなOCT,すなわちPTS-OCTが実現できれば,モード同期レーザーのフレームレート(数MHz)に対応した速度で断層画像を取得できると考えた.PTSとは,極短光パルスが媒質中を伝搬する際に生じる群速度分散によって極短光パルスを数ナノ秒程度まで時間伸長して,その波形をスペクトル情報として周波数軸に射影する超高速の分光法である5-7).一般的にPTSの光源には,モード同期レーザーが使用され,市販のモード同期レーザーのパルスとパルスの間隔は10 ns程度である.このパルス間隔の場合,スペクトル幅が100 nmを超えるとパルス同士が干渉するため,分光データの取得が妨げられる.パルス同士の間隔を長くするためにはモード同期レーザーの共振器長を延長する必要がある.しかし共振器を構成するファイバ長を延長すると室内の温度変化によりファイバ長と偏波が変化し,安定したモード同期動作を得ることは極めて困難となる.しかし,このような特性を有する市販のレーザーは現存しない.共振器長を延長して安定なモード同期動作を得るためには偏波保持ファイバを用いて共振器を構成する必要がある.この偏波保持ファイバを用いて共振器を構成する場合,モード同期機構は,可飽和吸収体を用いる.そこで応募者は,偏波保持ファイバと可飽和吸収体で構成したモード同期レーザーの開発を行った.ところが共振器長を6 m以上に延長すると二つのパルスが形成されることを確認した8). − 274 − 超高速フォトニックタイムストレッチ光干渉断層計による レーザ加工中における材料内部の可視化

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