2.6 Wの吸収励起パワー、すなわち本実験での最大励起パワーにおいて、5〜40 kHzの範囲でレーザ性能の繰り返し率依存性を評価した。図4(a)にパルス幅と平均出力の繰り返し率依存性を示す。FWHMパルス幅は、繰り返し率に応じて20 nsから23 nsの間でわずかに変化した。これは、QスイッチFe:ZnSeレーザで得られた最短のパルス幅である。20 kHz以下の繰り返し率ではパルス幅は変化せず、20 kHzを超えるとわずかに増加した。このようなパルス幅の飽和現象は、パルス周期がFe:ZnSeの上準位寿命よりも長いために生じたと考えられる。77 Kでの寿命は57 µsであり、これは17.5 kHzの繰り返し周期に相当する。この値よりも長い変調周期でアクティブQスイッチングが行われる場合、利得媒質に蓄えられたエネルギーはれた。繰り返し率10 kHzおよび30 kHzにおけるスロープ効率は14%〜16%であり、30 kHzでの最大平均出力は0.5 Wであった。 図2■CW(四角)およびQスイッチ発振(繰り返し率10 kHzおよび30 kHz)における平均出力 図3■(a)QスイッチFe:ZnSeレーザの典型的なパルストレインの時間波形、(b)単一パルスの時間波形、(c)CWおよびQスイッチ動作時の典型的なレーザースペクトル 図3(a)および3(b)に繰り返し率10 kHzでのQスイッチFe:ZnSeレーザの典型的な時間波形を示す。前述のように(図2)、5〜40 kHzの周波数範囲で安定したパルストレインが得られた。図3(b)には、1.7 Wおよび2.6 Wでの励起における10 kHzの出力パルスの時間波形を示している。これは、図2における最も低い励起パワーおよび最も高い励起パワーにそれぞれ対応する。励起パワーを1.7 Wから2.6 Wに増加させると、パルス幅は54 nsから20 nsに短縮された。高い励起パワーは媒質内での利得を増大させ、これにより少ない往復回数(1回の往復=1.4 ns)でレーザパルスが生成される。図3(c)には、2.6 W励起におけるCWおよび10 kHz Qスイッチ動作の典型的なレーザ発振スペクトルを示す。CWおよびQスイッチ動作の中心波長および全幅半最大(FWHM)は、それぞれ4045 nm / 45 nmおよび3990 nm / 65 nmであった。単結晶媒質を使用した場合でも、Fe:ZnSeレーザは比較的広い発振スペクトル幅を示すことが知られている2)。 図4 (a) 2.6 W励起におけるQスイッチFe:ZnSeレーザのパルス幅と平均出力の繰り返し率依存性、(b) パルスエネルギーとピークパワーの繰り返し率依存性 自発放出によって制限される。本システムでは、実際の寿命は40 kHzの逆数である25 µs未満と推定される。上準位寿命が報告値よりも短い理由は、高出力励起によって結晶温度が局所的に上昇したためと推測される。図2に示される30 kHz動作の不規則な閾値特性も、この観点から説明できる。励起パワーが増加するにつれて上準位寿命が短くなり、利得が変化した可能性がある。平均出力は繰り返し率が高いほど増加し、40 kHzで最大平均出力0.55 Wが得られた。パルスエネルギーとピークパワーの繰り返し率依存性を図4(b)に示す。パルスエネルギーは繰り返し率− 270 −
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