天田財団_助成研究成果報告書2024
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キーワード:中赤外レーザ,レーザ樹脂加工,ファイバレーザ,■■■■■■■レーザ 固体レーザ技術の進展により、小型・高効率かつ信頼性の高い高出力レーザ光源が産業・医療・科学などの分野で実用に供されるようになった。レーザ光源への要求は益々高度化・多様化しており、高出力化、短パルス化、高効率化、新波長帯開発など、様々な研究開発が行われている。本研究では挑戦的な課題の一つである中赤外域における長波長帯レーザ開発に注目した。長波長レーザの実用化が難しい背景として、利用可能なレーザ媒質および励起光源が限られていること、石英等の一般的な光学ガラスの赤外吸収端を超える波長であることなどが挙げられる。しかし、産業界からの中赤外レーザのニーズは大きく、有用性が広く認識されている。例えば、可視~近赤外光に対する級数係数が小さいガラスや樹脂などの透明材料の加工に、波長2.5~5 μmの中赤外レーザが有用であると考えられている。 本研究では、中赤外レーザ光を直接発生でき、将来的に更なる高出力化が可能な新規固体レーザ技術、ならびに、中赤外レーザを用いた樹脂加工技術の確立を目指し、Fe:ZnSeレーザおよび中赤外レーザによるプラスチック光ファイバの融着接続に関する基礎実験を行った。 2.■スイッチ■■■■■■■レーザ■ ・■■概要■遷移金属をドープしたII-IV族カルコゲナイド(例えば、Cr:ZnS、Cr:ZnSe、Fe:ZnS、Fe:ZnSeなど)を基にした中赤外線レーザは、近年大きな注目を集めている1)。これは、産業、医療、科学研究分野において多くの潜在的な応用があるためである。遷移金属をドープしたII-IV族カルコゲナイドは、遷移金属イオンの四面体配位における小さなエネルギー分裂と強い電子-フォノン結合により、広い吸収帯域と発光帯域、そして大きな断面積をもつため、中赤外域の波長可変レーザや超高速レーザに適している。特に、Fe:ZnSeは3.8〜5.2 µmの広帯域な発光を示し、Fe:ZnSやFe:CdSeに比べて蛍光寿命が長いという利点を有するため有望視されている。本稿では、我々が開発したEr:ZBLANファイバレーザ励起QスイッチFe:ZnSeレーザについて報告する。  ・ ■実験装置■音響光学QスイッチFe:ZnSeレーザの実験セットアップを図1に示す。Fe:ZnSe単結晶(Fe添加濃度:3.5×1018/cm3)は、レーザ上準位の寿命の短縮を防ぐため77 Kに低温冷却された。Fe:ZnSe結晶とCaF2ウィンドウは、フ( ■ ■年度■一般研究開発助成■■■■ ■ ■  ■■■■)■1.研究の背景と目的 京都大学■化学研究所 教授■時田■茂樹 レネル損失を減らすためにブルースター角で配置された。励起光源として、最大出力5 WのCW Er:ZBLANファイバレーザが使用された。このファイバレーザの発光波長2800 nmは、回折格子によって安定化されており、大気中のH2O分子による吸収が比較的小さい。また、ビーム品質(M2値)は1.1であった。ファイバレーザから出力される平行ビームは、凹型キャビティミラーを介してビーム直径210 µmに集光された。52%の入射励起パワーが長さ8 mmのFe:ZnSe結晶に吸収された。音響光学変調器(AOM)はゲルマニウム製で、P偏光に対して大きな損失変調を示し、長さ約194 mmの凹型-凹型共振器に挿入された。このシステムでは、ブリュースター角配置により直線偏光のレーザ出力が得られる。共振器ミラーはAOMの0次回折モードに合わせて配置された。AOMの回折効率は50%以上、立ち上がりおよび立ち下がり時間は約90 ns、光透過損失は2%であった。残留励起光はロングパスフィルター(カットオフ波長3000 nm)によって除去された。出力パワーとレーザ発振スペクトルは、それぞれパワーメーター(PM10、コヒーレント)および光スペクトラムアナライザー(AQ6377、横河電機)を使用して測定された。パルス動作を確認するために、時間波形はInAsSb光検出器(P13894-211MA、浜松ホトニクス)を使用して観察された。  ・■■実験結果■励起パワーに対するFe:ZnSeレーザの平均出力を図2に示す。AOMなしのCW動作下では、吸収励起パワーの発振閾値は約300 mWであった。CW出力はポンプパワーの増加に伴い線形に増加し、スロープ効率は46%であった。また、入射励起パワーに対するスロープ効率は24%であった。吸収励起パワー2.6 Wにおいて、最大CW出力1.15 Wが得られた。Qスイッチ動作下における平均出力の励起パワー依存性を図2に示す。図2に示された範囲よりも低い励起パワーでは、Qスイッチの繰り返し率よりも低い頻度でパルス発振が観察された。また、高い励起パワーではQスイッチの繰り返し周期内に複数のパルスが観察さ図1■Fe:ZnSeレーザの概略図 − 269 −中赤外パルスレーザによる透明樹脂の微細加工

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