(b)■まとめ図8(■)ガラス管内部に析出した銀ナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真と、ff■■銀ナノ粒子の局所プラズモン共鳴に由来する光散乱スペクトル ・■微細ガラス管を使った高感度な分子分光検出金属ナノ粒子と光の相互作用は、局所表面プラズモン共鳴(local surface plasmon resonance : LSPR)と呼ばれる自由電子の共鳴的な振動によって、金属ナノ粒子の表面に極めて高い強度のナノスケールの増強電場(ホットスポット)を形成する。この増強電場を用いると、光散乱、光化学反応、光起電力効果など、さまざまな光学的作用を増強し高効率に励起することができる。表面増強ラマン散乱(surface enhanced Raman scattering : SERS)分光法はLSPRを応用したラマン分光法である。一般的に、金属ナノ粒子で修飾した平らなガラス板の表面に試料の溶液を滴下し、レーザー光を集光照射してLSPRを励起する。レーザー光によって照明された金属ナノ粒子の表面に試料分子が吸着し、LSPRによって発生した局所的な増強電場の中に存在していると、試料分子のラマン散乱光が通常よりも増強されて発生する。SERSスペクトルをより効率良く感度良く取得するためには、金属ナノ粒子が生み出すホットスポットの数を多くし、さらにホットスポットの中に試料分子が存在する確率を増やすことが重要である。本研究では、レーザー加熱・延伸法で作製した微細ガラス管を使った新しいSERS分光法を開発した。その概略図を図9(a)に示す。前述のように、内壁を銀ナノ粒子で修飾したガラス管の中に試料の溶液を流し入れ、ガラス管の先端にレーザー光を集光照射すると、レーザー光はガラス管の中を導波モードで伝搬し銀ナノ粒子の局所プラズモンを励起する。長いガラス管の内側に敷き詰めた全て銀ナノ粒子がむらなくレーザー光によって照明され、粒子表面の分子から表面増強ラマン散乱が生じる。ラマン散乱光も、ガラス管から外部への漏出が抑えられ、ガラス管内を導波モードで伝搬してガラス管先端まで導かれる。レーザー光の入射に用いた対物レンズでSERS光を捕集し分光器に導き、ラマンスペクトルを取得する。一般的な平板のSERS基板を用いるよりも少量の試料でスペクトル取得が可能で、その検出感度も大幅に向上した。ガラス菅の外径、内径はそれぞれおおよそ30µm、25µmで、内壁には還元反応によって図8で示したような銀ナノ粒子が高密度で析出している。実験では、ラマン散乱励起用にHe-Neレーザー(波長632.8nm)を用い、一度ビームエキスパンダーでビーム径を広げた後、顕微鏡用対物レンズ(NA 0.5)でガラス管末端に集光入射した。ガラス管からの戻り光を同じ対物レンズで捕集し、ノッチフィルターでストークスラマン散乱の成分だけを透過させて分光器に導き、スペクトルを取得した。図9(b)は、ローダミン6G水溶液をテスト試料として取得したラマンスペクトルである。詳細は省略するが、それぞれのラマンピークは、ローダミン6Gの分子構造に由来する振動モードに対応させることができる。5つのスペクトルはそれぞれ、ガラス管の長さを5mm〜25mmまで変えた時の結果である。本手法の特長は、単純にガラス管の全長を長くすることでラマンスペクトルの信号強度が増加していることが分かる。本手法では、1.0×10-9mol/Lの低濃度の試料からでもローダミン6G分子のスペクトルを取得することができた。また、ガラス管の直径が20µm程度であることから、ガラス管を満たすために必要な試料の体積は1.0×10-9L程度で、おおよそ水一滴の1/10,000の量に相当する。ごくわずかな試料からの分光計測が必要な応用で本手法は特に有用であると考えている。図9(■)内部を銀ナノ粒子で修飾された微細ガラス管を用いた表面増強ラマン分光法の概略図と、ff■■その手法で取得したローダミン6■水溶液のラマンスペクトル本研究では、レーザー光照射による局所的加熱と引っ張り応力印加を同時に行い、マイクロ/ナノスケールの微細なガラス構造を作製する原理の実証と最適な加熱・延伸の条件の検証を行った。試料には断面が円形のガラス管を用い、二段加熱・延伸とレーザー光強度のその場変調によって、直径■■■■■で長さ■■■程度のガラス管を得た。構造内部を金属ナノ粒子で修飾し、局所プラズモン共鳴による光学的特性を付加する簡便な手法について、ff■■ガラスと共− 252 −
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