4.まとめと今後の展望謝辞形吸収が加工の開始点となるため,長いパルスではアブレーション閾値を超えるエネルギー吸収に必要な電場強度が得られないからと考えられる.照射した最大フルーエンス5.2 J/cm2において,加工が起きる最長のパルス幅はシリカガラスとEagle XGでそれぞれ30 psと50 psであった.シリカガラスの方がEagle XGに比べて吸収端が短波長であることから,初期の非線形吸収により大きな電場強度が必要となり,短パルスである必要があるからと考えられる.図5シリカガラスとEagle XGの穴あけ加工における加工レートのパルス幅とフルーエンス依存性シリカガラスの加工閾値フルーエンスのパルス幅依存性を注意深く見ると,最短のパルス幅400 fsの場合よりも1 ps以上の場合において閾値が低くなっている.先行研究によれば,シリカガラスの加工は非線形吸収による電子励起から始まるが,その後,破壊が起きる臨界電子密度(1021cm-3程度)に達する過程では,励起電子がレーザー電場から加速を受けて原子に衝突することによる衝突励起による電子密度増加が支配的である.フェムト秒パルスでは非常に短時間の間に臨界電子密度に達する必要があり,より大きなレーザー電場が必要となり,閾値を増加させることになる.一方でパルス幅が長くなると,ピーク強度が低くなり,より大きなフルーエンスが必要となるため,やはり閾値を増加させる9).Eagle XGにおいても同様のことが起きると考えられるが,より詳細な測定が必要である.本研究では,金属とガラスにおける超短パルスレーザー加工において,レーザーのパルス幅と繰り返しレートに対する依存性の広域的な調査を行った.銅・アルミ・ステンレス(SUS304)の3種類の金属について,400 fsから200 psまでのパルス幅依存性を調べた.加工レートはパルス幅が長くなるにつれて減少する一般的な傾向が見られたが,アルミやステンレスについては極小点があることが分かった.長いパルス幅では加工痕周囲に熱影響とみられる溶融再固化によるリム発生が観測された.また,銅・アルミについて,100 Hzから1 MHzまでの繰り返しレート依存性を調べた.アルミでは高繰り返しで加工レートが増加する傾向が見られ,蓄熱の影響が考えられるが,他要因についての検討も必要である.繰り返しレートによって,デブリ発生量にも違いが見られた.シリカガラス・Eagle XGの2種類のガラスの穴あけにおいて,パルス幅とフルーエンスの依存性を調べた.非線形吸収のため,加工が起きるパルス幅上限が存在した.シリカガラスの加工閾値のパルス幅依存性からは衝突電離による電子生成が支配的であることが示唆された.本研究で行ったような加工パラメータの広域連続的な分析により,最適なプロセスウィンドウの探索ができるだけでなく,超短パルスレーザー加工のダイナミクスを明らかにするための基礎的知見が得られる.さらに,パラメータを加工の間に動的に変調することにより,加工ダイナミクスを制御して,高生産性と高品位を両立する新たな加工レジームが見いだせる可能性がある.現在,我々は加工中のインプロセスモニタリングを併用することにより,加工中の状況に応じた最適パラメータを与えることにより所望の加工を実現する「アクティブ制御レーザー加工」をめざして研究を進めている.さらに,本研究によりパラメータ自動可変加工装置を用いて得られた大量の広域パラメータに対する加工データは,機械学習によるレーザー加工のモデリングに応用可能である.機械学習の手法を積極的に取り入れ,コンピュータ上のモデル空間で高速に最適化を行う研究にも取り組んでいる.本研究成果は,公益財団法人天田財団 ■ ■年度一般研究開発助成金(助成番号:■■■ ■ ■ ■■■)の支援を受けて行われたものであり,ここに深く感謝の意を表す.− 243 −
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