キーワード:超短パルスレーザー,パルス幅,繰り返しレート ■ーザー加工は,加工部位への熱影響を低減した高品位な加工が可能となることから,金属・ガラス・セラミックス・樹脂・複合材など多種多様な材料の微細加工において極めて有用な技術となっている1).超短パルスレーザー加工のダイナミクスはまだ完全には解明されていないが,概略的には次のように理解されている2).レーザー光を物質に照射すると,電子励起を伴って光は物質に吸収される.高いエネルギーを得た電子系は電子間の散乱を通して,高温の熱平衡状態に達する.電子系のエネルギーは電子格子相互作用を通して,格子系へ移動し,物質の急速な加熱による相変化や相爆発が起き,物質の除去が起きると考えられる.最も簡単なモデルとしては,電子温度と格子温度の変化を記述した二温度モデルで議論されることが多い3~6).レーザーのパルス幅が電子格子緩和時間よりも十分長い場合は,平衡化後の一温度モデルで考えることができ,熱拡散による侵入長の寄与から加工の閾値フルーエンスがパルス幅の平方根に比例することが知られる.パルス幅が電子格子緩和時間と同程度かそれよりも短くなると,平衡に至る前の電子の熱拡散が関与し,単純な平方根則では記述できなくなる7).このように,レーザー加工現象はパルス幅に大きく依存する8~21).■さらに吸収過程を詳しく考えると,金属の場合はドルーデモデル(イオンによる散乱を考慮した自由電子モデル)で理解されるが2),半導体や誘電体の場合は非線形吸収(多光子過程やトンネリング)に続いて衝突電離が始まることで加速的に電子密度が増加し,金属的なふるまいを示すようになる.非線形吸収は光のピーク強度に依存し,衝突電離もレーザー電場の強さに依存するため,パルス幅が現象を決める重要なパラメータとなる9,12).■■レーザー加工はレーザーパルスの繰り返しレートにも大きく依存する22~27).繰り返しレートを変えることは,パルスの間隔を変えることと同義であり,先行パルスの残存効果が後続パルスへ与える影響に関係する.パルス間隔が熱拡散時間よりも短くなると,加工部に熱が蓄積される効果が現れる22~24).繰り返しがGHz領域のバースト加工では,低繰り返しの加工に比べて加工効率が向上することが報告されている25~27).また,パルス間隔がアブレーションにより生じたプルームが消失する時間よりも短1.研究の目的と背景 ■フェムト秒~ピコ秒の超短パルスレーザーを用いたレ国立研究開発法人産業技術総合研究所■電子光基礎技術研究部門■( ■ ■年度■一般研究開発助成■■■■ ■ ■ ■■■) 主任研究員■吉富■大■2.研究方法 ■本研究では我々が開発したパラメータ自動可変超短パいと,後続パルスの照射がプルームにより妨げられるシールド効果が起きる22,28).■■このように,レーザー加工はパルス幅や繰り返しレートに大きく依存することから,加工速度や品位が最適となるパルス幅や繰り返しレートの領域(プロセスウィンドウ)を見出すためには,パルス幅や繰り返しレートの広域連続的な依存性を調べ,最適化することが重要となる.しかし,広域連続的に複数のパラメータを可変した加工データを収集するためには,手動でのパラメータ調整では限界がある.我々はこれまで,パルス幅やパルスエネルギー・繰り返しレートなどの複数パラメータを広域連続的に自動可変制御できる超短パルスレーザー加工装置を開発してきた20,29).本装置を用いると,レーザーパラメータ可変制御と同期して,加工装置のステージ制御を行うことができるため,パラメータ可変加工データを効率的に収集することが可能である.■本研究では,パラメータ自動可変超短パルスレーザー加工装置を用いて,金属やガラスにおいて超短パルスレーザー加工のパルス幅や繰り返しレートの広域連続的分析を行った.このような広域連続的分析を行うことによって,例えば,所望の品位の穴あけ加工を行うために,フェムト秒レーザーではなく,■■■ピコ秒レーザーでも目的に十分な加工品位が得られるならば,大きな設備投資や維持コストの削減を見込むことができる.実際に何ピコ秒以下であれば所望の品位が得られるかなどを知るためには,広域連続的な分析が必要である.また,一定の平均パワーに対して,繰り返しレートとパルスエネルギーはトレードオフの関係になるが,これらの組み合わせを適切に選ぶことにより,エネルギー効率を最適にした加工が実現できる.上記のような実用的意義に加えて,パルス幅や繰り返しレート依存性を詳細に調べることは,超短パルスアブレーションに関与する物理過程を詳細に理解するうえでも,連続的なパラメータ依存性データは非常に有効であると考えられる.■ルスレーザー加工装置を用いた.本装置の構成を図1に示す.レーザー光源として,イッテルビウム添加ファイバーを用いた超短パルスチャープパルス増幅器を開発し,パル− 240 −自動パラメータ可変技術による超短パルスレーザー加工の パルス幅・繰り返しレート依存性の広域連続的分析
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