天田財団_助成研究成果報告書2024
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■5432100 スタイラスアモルファススタイラス結晶その場成膜のエラーバーの上限は図2の温度依存性から推測される上限値を設定した。その場アニール600℃とポストアニール600℃成膜の密着力の違いは誤差範囲であると思われる。この結果よりジルコニア基板上のアパタイト成膜では成膜時の基板温度が密着性に大きく依存することが分かる。一般的にRFマグネトロンスパッタリング等のアパタイト成膜は基板加熱をせずに室温で行うが、これらの結果は成膜方法に関わらず基板温度の高さが密着力の向上に大きな効果が得られることが分かった。 また、成膜時24℃のポストアニールの成膜は室温のその場成膜の結果より密着力が低い。これは密着力が低い成膜が600℃アニールの加熱でジルコニア基板とアパタイト膜の線膨張係数の違いから応力を受け成膜自体の亀裂、ジルコニア基板との界面の部分的な剥離が生じたためと考えられる。  ・■■成膜表面の摩擦に対する温度依存性■成膜物質の剥離直前までの信号の傾きは成膜物質表面を励振するスタイラスの成膜表面の摩擦の情報を含んでいる。このため、摩擦係数に相当する信号の傾きを図7に示す。成膜時の温度はその場アニール成膜においてはアニール温度に一致し、ポストアニールの場合は、成膜時の室温と600℃の温度となる。その場アニールのものは■でポストアニールの結果は●で示してある。この結果、その場成膜の低温度の場合は傾きが大きく摩擦が大きい。一方、高温度になるに従い摩擦力は小さくなり一定になった。これは図視してあるように低温時は成膜の硬度が小さく、スタイラスが表面を押して湾曲させながら励振するため摩擦力が大きくなったためと考えられる。高温になるに従い成膜は硬質化し、成膜は窪むことなくスタイラスが表面を滑るため一定値になる。ポストアニールにおいては図4の図7■摩擦係数の成膜時の基板温度依存性 ラマン分光スペクトルで示すように成膜は結晶化しているため硬質化していると考えれば室温での結果も矛盾がない。 温度の上昇に依存して密着力、剪断応力ともに上昇するが、密着力の増加が高く、また成膜の硬さが十分でないためスタイラスが成膜に食い込み、剥離せずに徐々に削れていったと考えられる。この場合、成膜物質はアモルファスであり結晶に比べて水溶性が高く、生体内での長期間の維持といった面で劣る。同時に、部分的な剥離が生じる荷重で一部は破断、亀裂を生じると予想されるなどの理由から、生体用インプラントの成膜には適さない。また、さらにアニール温度が上昇することで、膜は結晶化し硬質化する。同時に剪断力が上昇し剥離が明瞭に生じ、臨界剥離荷重が測定される様に変化したと考えられる。■■アパタイトの成膜は物理的成膜としてPLD法の他、プラズマ溶射、RFマグネトロンスパッタリングなどの方法で成膜が行われている。これらの方法では基板の温度を上げることなく成膜を行いポストアニールで結晶化を行うのが一般的である。また、交互浸漬など化学的に成膜を行う方法も室温で成膜を行うため、一般的に密着力は弱い。本実験での室温成膜のポストアニールはこれらの成膜方法にほぼ一致しジルコニア基板に対して高い密着力が得られないことが分かった。ポストアニールの結果でも分かるように、成膜時の基板温度を高くすることで高い密着力が得られるが成膜と加水分解を同時に行えるエクリプス型PLD法は緻密、高純度、高結晶性が得られる高品質と高密着性が得られるため骨固着を伴う生体用インプラントの成膜に非常に有用であると期待できる。■本実験で成膜時の基板温度が高いことでジルコニア基板とアパタイトの高密着力が得られることが確かめられた。一方、基板と成膜物質の熱膨張係数の違いから成膜の亀裂、剥離が生じる懸念もあり、どのくらいの基板温度の上昇が可能か把握することは非常に重要である。Van DijkらはPt-10%Rh(線膨張率9.0 x 10-6 K-1)基板上のアパタイト成膜(線膨膨張率13.7 x 10-6 K-1)をポストアニールで600℃に加熱することでアパタイト成膜の亀裂を報告している9)。このときの膨張による差は2.7x10-3となる。ジルコニア(線膨張率10.4 x 10-6 K-1)基板の場合、845℃の温度上昇に相当することになる。したがって、本実験の650℃以内のアニール温度での成膜における応力による亀裂、剥離の影響は無視できると考えられる。 3.議論 ■マイクロスクラッチ試験における成膜の剥離は成膜物質の膜と基板の界面での密着力と成膜自体の剪断応力で決まると考えられる。その場成膜においては図2A、B、Cに示されるように2つの形状で最大剥離荷重が測定された。図2Aでは剪断応力も弱いがそれ以上に密着力が弱く、非常に低い最大剥離荷重で成膜が剥離する。アニール100200400500成膜時基板温度[C]300600700− 238 −

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