■■さらに、感染血清を希釈した液を検体として各IgGを定量化するための検討を行った。血清中の成分はELISA法によるシグナルを阻害することが多いが、ブロッキング試薬にウェスタンブロッティング用のChon Blockを使用することで、血清成分によるシグナルの阻害を抑えることができた。血清原液を10倍、100倍、1,000倍希釈した検体液を使い、マイクロ流路による検査チップとIC法で最小検出感度を比較した。27検体について比較した結果、レーザ改質による抗体検査チップでは、すべての血清検体で10倍、100倍希釈は明瞭にIgGを15分で検知でき、うち17検体は1,000倍希釈でもIgGを明瞭に検知した。一方、IC法では100倍希釈でIgGを15分で検知できたのは3検体であり、1,000倍希釈ではすべての検体でIgGを検知できなかった。 この結果から、レーザ改質技術によって作製した抗体検査チップは、既存のIC法による簡易検査キットよりもおおむね100倍低い濃度のIgGを15分で定量的に検出できることが明らかとなった。これにより、レーザ改質基板にリコンビナントタンパク分子を固相化し、感染血清中の微量のIgGを15分で定量化する検査チップとその試薬セットを構築することができた55--99))。 ■・■■量産化技術の検討 レーザ改質により得られる表面特性の均一性と再現性は、量産化プロセスにおいて重要な要素であり、工業的応用にも適している。特に改質表面に周期構造が作製されていることは、タンパク質溶液のインクジェット印刷において、印刷スタンプのような特徴を持つ。印刷スタンプは、特定のパターンや形状を柔軟な表面に持ち、それらを転写することによって、微細なパターンを基板に賦与する。 レーザ改質によってインクジェット印刷基板の表面に微細なパターンを高精度に形成することは、タンパク分子が固着し固相化に至るプロセスにおいて、表面エネルギーを調整して濡れ性を制御するために重要である。量産化の観点から見ても、本技術によって得られた成果は従来のリソグラフィ技術よりも簡便でコスト効率が良い。また、表面改質により液体が広がる特性を持ち、硬質膜であることから耐久性が高いという特徴も有している。 超短パルスレーザーは高い空間分解能で機材表面に細かいパターンを高精度に作製できるため、高分子材料の薄層表面に新たな機能性を賦与することが可能である。 本研究では、タンパク分子の安定な吸着が困難であったプラスチック材料を親水性に改質し、検体中のIgGを選択的に捕捉できる表面性能に変えた。これらのプロセスは機械のデジタル制御で全て可能であり、工業的な量産化プロセスにとって再現性が高く、有益な成果を本助成で得ることができた。 4.結論 謝■辞■参考文献 レーザ改質技術による分子認識界面の形成は、感染症抗体検査キットの性能を大幅に向上させる可能性が示された。特に、リコンビナントタンパク分子が親水層でIgGの特異的な捕捉を迅速かつ正確に行えることから、この技術の有用性は明白になったと考えている。レーザパルス波による分子認識界面技術は、非特異的吸着を効果的に除去するだけでなく、偽陽性の発生を抑制することも可能であり、これにより感染症対策として非常に有望な技術となる。 この技術の最大の強みは、レーザ改質によって作製される表面が分子レベルでの精密な構造を持つため、タンパク分子の安定性が高まり、抗原抗体反応の効率が向上する点にある。また、レーザ改質表面が親水性であるため、タンパク分子の吸着が高い選択性を持ち、非特異的な吸着が最小限に抑えられる。この特性により、偽陽性のリスクが低減され、検査の信頼性が向上する。 今後の課題としては、まず、他の抗原タンパク質に対しても同様の技術が適用可能かどうかを検証する必要がある。これにより、様々な感染症に対応した多様な抗体検査キットの開発が期待される。またレーザ改質技術の産業的応用を考慮し、製造ラインの自動化やプロセスの最適化が望まれる。これらが進むことでより安価で高性能な抗体検査キットの提供が可能となり、公衆衛生の向上に寄与することが期待される。このように、レーザ改質技術による分子認識界面の形成は、感染症抗体検査の分野において革命的な進展をもたらす可能性があり、今後の研究と開発がさらに進むことが強く期待される。 本研究を遂行するにあたり国立研究開発法人産業技術総合研究所の田中正人博士にはひとかたならぬご協力をいただき、感謝の意を表します。■■) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ff ■■■■■■■■ff■■■ ) 渕脇雄介■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ff ■ ■■■■■■■■■) 渕脇雄介:特■■■■■■■■■■ ■ ■■■■■■■■) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ff ■ ■■■■ ■■■■■) 渕脇雄介■■臨床検査医学会誌■■ ■■■ff ■ ■■■■■■■■■) 渕脇雄介■■臨床化学■■■■■■ff ■ ■■■■■ ■■■) 渕脇雄介■■シーエムシー出版■■■■■■■■■■ff ■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■) 渕脇雄介・兼田麦穂・林郁恵・藤井理恵・田中正人・山村昌平■■医療検査と自動化■■■■■■ff ■ ■■■■ff■■■■■) 渕脇雄介:日本臨床検査自動化学会会誌■■■■■■ff ■ ■■■■■■■■− 228 −
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