天田財団_助成研究成果報告書2024
229/508

図2レーザ改質による基板表面の解析:(a)アクリル構造式, (b)レーザ改質後のXPSによるアクリル基板表面のBinding Energyの変化3.研究成果■・■レーザ表面改質技術と抗体検査用分子認識界面の諸検討プラスチック表面の極薄層は、様々な方法で改質することで、粘着性、潤滑性、濡れ性、摩擦、生体適合性などの表面特性が大きく変わることが知られている。一般的に用いられる方法としては、無機材料やプラスチックなどの高分子基板上に自己組織化単分子膜やプラズマ放電で親水性や官能性を導入する手法がある。ポリマー分子をプラスチック表面に化学的にグラフト化することで、吸着する分子の官能基が相補的官能基と反応して連結する。しかし、この方法は末端官能基や重合開始剤などの低分子物質を改質基板に安定に付着させる必要があり、基板材料の種類や状態に制約がある上、結合方法も比較的煩雑である。これに対し、超短パルスレーザ照射は高エネルギー密度をプラスチック表面に集中して当てるため、プラスチック材料の化学結合が分子レベルで切断されることが推測される(図2)。切断された面では水分子を強く引きつける超親水性の層が形成されるだけでなく、IgGなどのタンパク分子が化学的に結合することを促進する効果があることもわかっている22,,44))。一般的に、親水性の層はタンパク分子の保存安定性を保つ上で重要であり、非特異的な吸着を洗浄除去する効果も期待できる。こうした特性を科学的に解析していくため、リコンビナントタンパク分子のレーザ改質表面への吸着時の膜特性をQCM-D法により解析することとした。波のような変化が見られ、これは抗体分子がレーザ改質界面のリコンビナントタンパク分子に特異的に結合した時に得られた。一方、非特異的吸着では振動数が徐々に上昇し、最終的には洗浄によって完全に除去される傾向がある。この結果は、レーザ改質界面が特異的な結合に対して高い選択性を持ちつつも、非特異的吸着を効果的に抑制する能力を有していることを示唆する。さらに共振後の振動数の消散速度から、レーザ改質界面では硬質膜を形成していることが示唆された。つまり、レーザ改質された周期的なナノスケールの凹凸面にリコンビナントタンパク分子が強く結合しているにもかかわらず、IgGを選択的に認識する部位はほとんど影響を受けていないことが予測された。このように、親水性の層でソフト界面ではなく硬質膜が形成されることにより、リコンビナントタンパク分子による吸着界面の安定性と耐久性が向上し、長期間の使用が期待できる。■・ 流路基板上での■■■■■による抗体検査の評価本研究で進める抗体検査キットのコア技術は、リコンビナントタンパク分子が安定してIgGを特異的に認識できることにある。そのため、レーザ改質面での分子認識能を調べるために、ELISA法に基づいて3種類のSARS-CoV-2に対するIgGの測定を行った。NP(Nucleocapsid Protein)、RBD(Receptor-Binding Domain)、S1(Spike Protein S1)に対するIgGをそれぞれ選択的に捕捉する各リコンビナントタンパク分子溶液をインクジェット印刷によりレーザ改質界面へ塗布・固着させた。リコンビナントタンパク分子が基板に固相化された後、各基材や筐体を貼り合わせて検査チップを作製し、4℃で保存した。標準試料を用いた検討として、ポジティブコントロールの各IgGをリン酸緩衝液で希釈し、マイクロ流路の入口に滴下して抗原抗体反応を進めた。洗浄液、酵素標識抗体、発色基質を滴下してELISAを完結させ、得られた発色量から感度と正確さを見積もった。性能を比較するために、公定検査で汎用されているマイクロプレートELISAと簡易検査キットのIC法との結果を比較したところ、各IgGの最小検出感度はおおむね10 ng/mlで、マイクロプレートELISAとほぼ同等であった。一方、IC法では検知できなかった。これにより、レーザ改質技術により作製した抗体検査チップは既存のIC法より高い検出感度を有していることが示唆された5~9)。QCMはセンサ部を共振させたときに得られる周波数の変化(Δf)から、センサ表面の物質膜と液中の滞留する分子の相互作用をリアルタイムに観測できる。さらにQCM-D法では、センサの共振動作を途中で停止させることにより振動が消えていくときの振動数変化(ΔD)も同時に観測できるため、Δfだけでは測定できなかった膜の粘弾性やソフト膜の膜厚に関連した情報も得ることができる。QCM-D解析から、特異的結合および非特異的吸着の動態を詳細に観察した。特異的結合の場合、振動数にパルス− 227 −(a)(b)

元のページ  ../index.html#229

このブックを見る