天田財団_助成研究成果報告書2024
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ると、タンパク分子は表面に物理吸着によって固相化される。しかし、物理吸着は固着力が弱いため、安定に固相化される場合とされない場合があり、長期の保存安定性やシグナルの低下・バラつきの要因となりやすい。先の本研究助成の成果から22))、プラスチック基板をレーザ改質すると、規則的な周期構造と親水基が基板表面に賦与され、IgGが強固に固相化されやすくなることが分かっている。同じ現象がリコンビナントタンパク分子に対しても有用であるかどうかは不明である。ィド結合を組み合わせて保持しており、左右対称の構造を形成している。このH鎖とL鎖の可変領域には抗原結合部位があり、可変領域が影響を受けなければIgGは抗原と問題なく結合することができる。したがってIgGは比較的安定性の高いタンパク分子であると言えるため、可変領域以外の部位を固着化に利用することができれば、IgGの抗原認識能力が低下することはない。一方で、リコンビナントタンパク分子は、IgGのような決まった構造はしておらず、様々な影響を受けると考えられる。例えば、レーザ改質されたプラスチック表面ではナノスケールで凹凸構造が密集しており、改質表面に吸着したリコンビナントタンパク分子は分子内にある水分子が凹凸構造間の張力によって強く引っ張られるため、それらの作用によってタンパク分子の高次構造が壊れやすくなる。その結果として、固着したリコンビナントタンパク分子は高次構造を維持できなくなり、IgGと特異的に結合できなくなるため活性が著しく低下する。これまでIgGについてはレーザ照射条件と固相化量の関係について先の本研究助成22))の成果から詳細に検討と評価を行ってきたため、IgGに限らずタンパク分子自体をレーザ改質表面に固着させることは可能と考えられる。しかし、固着した後の表面の膜特性やその分子認識の挙動については未知なことが多い。そこでリコンビナントタンパク分子については、安定に固相化されているかどうか膜挙動も含めてQCM-D(Quartz Crystal Microbalance Dissipation)法を使って検討することとした。QCM-Dは基板表面の硬質膜やソフト膜などの粘弾性についての結果を得ることができる。この方法を用いて、リコンビナントタンパク分子が改質表面において安定に固相化されているかを詳細に検討する。 ・■■■■■■による測定方法抗体検査キットは、筆者が開発したマイクロ流路で構成されるチップデバイスと試薬瓶のセットから成る特許技術を活用している(図1)3)。測定操作は流路の入口に液を点着するだけで、ELISA法に従って発色シグナルが得られる仕組みである。この技術により、外部装置や前処理IgGは複数のユニットで構成される糖タンパク分子であり、各ユニットには4つのポリペプチド鎖が存在する。これらは2本の重鎖(H)と2本の軽鎖(L)で構成され、ジスルフィド結合によってつながっている。H鎖とL鎖は非共有結合性の相互作用と鎖間の共有結合性ジスルフが不要であり、検体や試薬を滴下するだけで、マイクロ空間内で逐次的に抗原抗体反応が迅速に進行する。そのため、待ち時間が少なく、手軽に検査ができる実用性の高い簡易検査法となっている。本研究では、SARS-CoV-2のリコンビナントタンパク分子とIgGに、Acro Biosystems社製のSARS-CoV-2 Spike protein RBD (TAS002-C02)とAnti-SARS-CoV-2 Antibody (TAS002-C03)を使用した。また、血清試薬にはRayBiotech社製の不活化処理されたCOVID-19 Serum (CoV-PosA-P-100)を用いた。比較として、中和抗体検査用のイムノクロマト試薬(IC)は、感度の高いLIONRUN製とクラボウ製の2種類を使用した。測定手順としては、最初に検査チップの入口に洗浄液を2回滴下し、次に検体液を滴下して5分間静置する。続いてヒトIgGを認識するペルオキシダーゼ標識抗体を滴下して5分間待つ。次に洗浄液を5回滴下し、発色基質(TMB)液を滴下してから5分後に発色量を測定する(図1)。図1マイクロ流路から構成される抗体検査キットの試作品:(a)検査チップと試薬瓶と発色測定解析用のスマートフォン、(b)ELISA法に基づくマイクロ流路基板上での抗体検査の測定原理非特異的な吸着を抑制するために、StabilCoat(XLC製・アイルランド)とChonBlock(90691P, Chondrex社)をブロッキング試薬として使用した。これらの試薬は、抗原抗体反応に関係ない吸着を抑えることで高いS/N比を得るのに効果的である。調製後の試薬は全て4℃で保存し、使用時には室温に戻してから使用した。また、各試薬は指示された手順に従ってリン酸緩衝液で希釈し、所定の濃度になるようにした。− 226 −試薬検査チップ発色測定用スマホ(a)(b)

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