天田財団_助成研究成果報告書2024
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キーワード:ポストコロナ,レーザ改質,感染症 1.研究の目的と背景 子と■■■の固着■ ■ ■年の新型コロナ禍で見られたように、その場で感染歴の有無や免疫力の程度を示す中和抗体価を迅速・正確に定量化するための技術は重要である。しかし、普及している既存の抗体検査法は、妊娠検査薬のように検体を滴下してセルロース膜上に表示される線を目視診断するものであり(イムノクロマト法)、感度が低い(擬陽性や擬陰性など)という課題がある。そこで、簡便でありつつより高感度に抗体検査ができる検査デバイスとして、酵素免疫測定法を簡便に実現できる新規な検査チップを開発する。■これまで筆者はレーザ改質技術を駆使して抗原抗体反応による定量検査を迅速に行えるマイクロ流路型の検査チップデバイスを構築してきた1)。プラスチック基板上のマイクロ流路にレーザのパルス波を連続照射することで、プラスチック表面が物理的かつ化学的に改質され、抗体が基板へ強固に固相化されることを可能にした。この技術は、従来法がウェットな環境下で分子自己組織化膜により抗体を基板上に長時間静置して化学的に結合する必要があったのに対し、ドライな状態で迅速かつ連続的に抗体を固定化できるため、歩留まりの向上と量産化に優れる特徴を有している。■しかし、抗体分子の固相化は抗体自身がタンパク分子として比較的安定であるためドライな環境下でも実現可能であったが、本法で行う「抗体検査」ではより不安定な“抗原(リコンビナントタンパク質)”をプラスチック上に固定化する必要がある。そこで、先の本研究助成22))で構築したプラスチック面への抗体分子の固定化技術を応用して、リコンビナントタンパク質の固相化をはかる。具体的には、レーザ改質により表面を局所的に親水化することでリコンビナントタンパク質の安定な固定化を実現する。このときレーザ改質されたプラスチック表面の凹凸構造が密集すると、リコビナントタンパク分子内にある水の表面張力が互いに強く作用するため、タンパク質内の分子がナノスケールの凹凸構造の表面に強く引っ張られ、分子構造が維持できなくなり崩れるリスクが高かった。これに対してセルロース膜上では、リコンビナントタンパク質は安定に固定化されることが知られており、セルロース膜のような親水性でソフトなファイバー材料だとリコンビナントタンパク分子は構造を安定に維持して固相化される可能性が高い。そこでプラスチックのような硬質材料でもレーザ改(国研)産業技術総合研究所■健康医工学研究部門■上級主任研究員■渕脇■雄介■( ■ ■年度■一般研究開発助成■■■■ ■ ■ ■■■■■)■質によって親水性を局所的に賦与することで、リコンビナントタンパク分子の膜としての粘弾性を確保できれば、安定性の高い抗体検査用の基板の構築が可能と考えられる。■本研究では、レーザ表面改質技術とインクジェット印刷技術を組み合わせて、新しい抗体検査用の診断チップを作製し、産業界に展開するための製造プロセスの検討を行った。具体的には、プラスチック表面に異なる条件でレーザ改質を行い、その後すぐにインクジェット印刷でリコンビナントタンパク分子溶液を改質表面に塗布・印刷した。塗布後のタンパク分子膜がどのような挙動を示すのかについて評価を行い、粘弾性の観点から考察を行った。本法で作製した診断用チップが量産に適しているか、また診断用チップから得られるデータが分析学的性能として有用であるかどうかについて、既存のマイクロプレート法と比較して検討を行った。■ 2.研究方法  ・■■リコンビナントタンパク分子の固定化 プラスチック基板の表面にレーザ照射条件1 kHzのサファイアレーザー(IFRT, 1 W, 1 mI/pulse, λ=779 nm)から158 fsのパルス波を照射し、選択した領域のみを親水性表面に化学的改質した。最適なレーザ照射パラメータは、先の研究助成の成果2)から、レーザフルエンス1.5-10 J/cm²とスキャン速度20-1,000 µm/sで検討を行い、1.5 J/cm²・100 µm/sで安定な濡れ性を維持し、酵素免疫測定(ELISA法)でシグナルを得ることができた。 リコンビナントタンパク溶液の基板への塗布と固定化には、クラスターテクノロジー社製のインクジェット印刷装置(Pulseinjector®)を使用した。リコンビナントタンパクは不安定で高濃度のため、塗布量と位置は精密に制御する必要がある。本法では高粘度のタンパク溶液をハイスループットで塗布するため、使用するインクジェット印刷装置はこれらの要求を満たす必要がある。Pulseinjectorはピエゾ駆動により高粘度の液を塗布でき、マイクロスコープで塗布の様子を常時観察できる。また高価なタンパク溶液を使用後に回収できるノズル構造を持つため、繰り返し利用が可能であり、本研究に適用した。  ・ ■レーザ改質基板へのリコンビナントタンパク分プラスチック基板にタンパク分子を含む溶液を塗布す− 225 − ポストコロナ社会を構築する、レーザ改質技術による 感染症抗体検査キットの量産化技術の開発

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