天田財団_助成研究成果報告書2024
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4.結言謝辞参考文献ナボールのヤング率がSUS304よりも高いため,接触面圧はSUS304ボールに比べて高い.その摩擦試験では,ホウ化タンタルコーティングは剥離しなかったが,400℃で製膜したホウ化ニオブとホウ化バナジウムのコーティングは剥離した.このことから,ホウ化タンタルコーティングの基材への密着性は高いが,低摩擦低摩耗を示したホウ化バナジウムコーティングは,密着性が十分ではないと考えられる.しかし,500℃と600℃で製膜したホウ化バナジウムコーティングは剥離しなかった.そこで,図8に示すように,基板直上に600℃で50nm程度製膜した後,製膜温度を下げながら製膜し,最終的には400℃で製膜する積層コーティングを検討した.積層コーティングの結果,膜厚が390nm程度で表面粗さが0.03mRaのコーティングを得た.XRDパターンを図9に示す.合わせて示した400℃で製膜した単層コーティングのXRDパターンと同様に29°付近と60°付近に赤丸で示したVB2(0001)反射と(0002)反射の回折ピークが見られたが,半値幅が狭くなっていることから結晶性が向上したことが分かる.ナノインデンテーション硬さを測定すると49GPa程度を示し,400℃製膜のコーティングのナノインデンテーション硬さ47GPaよりも高くなった.これは,積層製膜により結晶性が向上したためと考えられる.相手材をアルミナボールとした摩擦試験を実施し,積層コーティングが剥離しないことを確認した後,SUS304ボールを用いた摩擦試験を実施した.図10に結果を示す.図には,400℃で単層製膜したコーティングの結果も合わせて示した.これより,400℃単層製膜コーティングよりも600℃/400℃積層コーティングの摩擦係数の方が,最終的には少し高くなった.摩耗痕観察と摩耗深さを測定したところ,積層コーティングにより摩耗量は1/3程度に減少図8積層コーティングの概念図図9600℃/400℃積層コーティングのXRDしたが,SUS304の移着量が20%程度増加した.したがって,移着量が増加したため積層コーティングの摩擦係数が少し高くなったと考えられる.積層コーティングへの移着量増加の理由としては,積層コーティングの表面粗さが大きかったため,図11に示すように相手SUS304ボールの摩耗が多くなったことが考えられる.今後,製膜条件を最適化し,積層コーティングの表面粗さを低減することにより,さらなる摩擦摩耗特性の向上が期待される.本研究では,熱間成形金型用の新しい硬質膜コーティング材料として第5族元素遷移金属ホウ化物に着目し,ホウ化タンタル,ホウ化ニオブ,ホウ化バナジウムコーティングを摩擦摩耗特性の観点から比較検討した.その結果,ホウ化バナジウムが低い温度から結晶化し,硬度が高く,摩擦摩耗特性に優れることが分かった.また,基板への密着性向上や結晶性向上には,積層コーティングの有効性が示唆された.本研究は,公益財団法人天田財団一般研究開発助成の支援を受けて実施されました.深く感謝申し上げます.■)土屋能成:トライボロジスト■■■■■■■ff ■■■■■■■■ ■ )中溝利尚・笠井貴之・高須一郎:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ff ■■ ■■■ ■■■)土屋能成:■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■ff ■■■■■■■■■図10ホウ化バナジウムコーティングの摩擦特性図11相手SUS304ボールの摩耗痕− 209 −

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