1.研究の目的と背景2.実験方法キーワード:硬質膜コーティング,遷移金属ホウ化物,金型熱間加工で使用する金型は,大きな熱的負荷や機械的負荷により損傷するため,冷間加工用金型に比べて寿命が極端に短い1).例えば,熱間成形時のワークのひっかきや凝着により金型表面は摩耗する2).また,成形時には,金型母材の熱軟化防止や焼付き防止のため,大量の潤滑剤を吹き付けて金型表面を急冷するが,加熱/冷却の熱サイクルによる割れや熱疲労亀裂が生じることもある.したがって,熱間加工用金型の寿命を向上させるための母材や表面処理法の改良・開発が望まれている3).金型の表面処理法として,近年,耐摩耗性と耐焼付き性を改善し寿命を向上させる硬質膜コーティングが用いられている.そのコーティング法としては,アークイオンプレーティング法やスパッタリング法などの物理的蒸着法(PVD法)が多く用いられている.PVD法によるコーティング膜種としては,窒化チタンアルミ(TiAlN)や窒化クロム(CrN)が主に使用されている.さらに,硬さや耐摩耗性などの機械特性や耐酸化性向上のため,それらにいくつかの元素を添加したり積層製膜したコーティング膜も実用化されている3).しかし,TiAlN系やCrN系コーティングは,熱間成形用金型の寿命を劇的に向上させるまでには至っておらず,より優れた機械特性や耐酸化性を示す硬質膜コーティングが求められている.すなわち,1990年代に開発された従来のTiAlN系やCrN系コーティングの延長線上ではなく,機械特性・耐酸化性を飛躍的に向上した新規の次世代硬質膜コーティングの開発が必要である.そこで本研究では,既存のコーティングよりも機械特性と耐酸化性に優れた次世代の熱間成形金型用硬質膜コーティングの創製を目的とする.具体的には,既存の窒化物や炭化物と同等以上の機械特性と耐酸化性を示すホウ化物,特に,硬度が高い第5族元素を含む遷移金属ホウ化物に着目し,ホウ化タンタル,ホウ化ニオブ,ホウ化バナジウムを摩擦摩耗特性の観点から比較検討した. ・■製膜装置と製膜条件製膜には,ホウ化物のような高融点材料であっても蒸発させることができ,高品質の薄膜が得られるパルスレーザ堆積法(PLD法)を用いた.PLD製膜装置の概略を図1に示す.本装置では,波長355nm,出力0.5~0.6Wのナノ秒パルスYAGレーザを,製膜する材料の焼結体(=ターゲット)表面に集光してターゲットを蒸発させ,対向す岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域( ■ ■年度一般研究開発助成■■■ ■ ■■■■■■ )准教授塩田忠3.実験成果る基板上に製膜する.本研究では,ターゲットにはホウ化タンタル,ホウ化ニオブ,ホウ化バナジウムの各焼結体を,基板には片面鏡面研磨の超硬合金基板(Ra=0.002m,ナノインデンテーション硬さ=36GPa)を用い,基板温度を400~600℃とし,10-3Pa台の真空中で製膜した. ・ コーティングの特性評価方法製膜したコーティングの膜厚と表面粗さは,触針式表面粗さ計を用いて測定した.コーティングの結晶相はX線回折(XRD)を用いて同定し,コーティングの硬さとしてナノインデンターを用いてナノインデンテーション硬さを測定した.コーティングの摩擦摩耗特性は,往復しゅう動試験機を用いて測定した.相手材には,直径10mmのSUS304ボールを用い,荷重3N,すべり速度20mm/s,室温,無潤滑下で摩擦摩耗試験を行った.■・■ホウ化物コーティングの膜特性400~600℃で製膜したホウ化タンタル,ホウ化ニオブ,ホウ化バナジウムの各コーティングの膜厚は,それぞれ160~220nm,220~380nm,240~500nmとなり,製膜温度および材料の融点の低下と共に増加する傾向を示した.これらのコーティングの表面粗さは,表1に示すようにほと表1各コーティングの算術平均粗さ(mRa)ホウ化タンタルホウ化ニオブホウ化バナジウム− 206 −図1PLD装置の概略図400℃製膜500℃製膜600℃製膜0.0140.0140.0180.0100.0090.0150.0540.0100.009熱間成形金型用ホウ化物硬質膜コーティングの創製
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