天田財団_助成研究成果報告書2024
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PVAような均一膜を得ることは難しくなる.また,立体サンプル,特に鋼材の場合は,Siウェハより重くなり,平面ウェハと同様にスピンコータで回転させることが難しくなる.2)露光では,実際に入手可能なマスクは平面形状に限られるため,マスクと立体サンプルには必ずギャップが生じてしまう.ギャップは,像が完全にぼける20μm以上あると,パターンが曲面上で途切れたり,白黒パターンが逆転する領域が生じたりする.図3(a)従来および(b)新プロセス.図3(b)の新プロセスでは,シートを平面状態で扱う.スピン成膜により均一なレジスト膜が得られる.シートをサンプル面積よりも広く用意しておき,端部は使わず,均一な中心部のみを使えば良い.水溶性ポリマーpolyvinyl alcohol (PVA)は水には溶けるが,レジストが溶けるアセトン等の有機溶媒には溶けないため,1)成膜が成立する.パターン転写でもシートを平面状にし,フォトマスクとレジスト膜を密着する.光回折を最小にできる.ここまで,設備はスピンコータとマスクアライナで良い.平面基板用のフォトリソグラフィ標準装置を最良の条件で活用できる.2)得られた潜像付きレジスト膜を,しなやかに変形させて立体に貼る.PVA層はレジスト膜に対してクッション材として働き,薄膜レジストを傷め難い.3)PVA層は水で溶解して取り除くことができる.リソグラフィとしては異物に当たるPVAを無くすことができる.4)最後にレジスト膜を現像し,微細パターンが立体上に得られる.図4平面基板上の微細抗菌パターン3).■■■微細凹凸構造による物理的抗菌パターン図4に米国Sharklet Technologies社によって開発された微細抗菌パターンを示す3).これは,サメの皮膚の模様より着想を得たもので,幅2μm深さ3μmで配置された凹凸により微生物が表面に定着し,増大するのを防ぐ.細菌は飢餓ストレスにさらされたとき,バイオフィルムと呼ばれる細菌の集合体を形成し,生存率を上昇させる.その中で,バイオミメティクス(生体模倣)により化学的殺菌を用いない物理的抗菌への取り組みが盛んになっている.平滑表面と比較して,対数減少率87-99%で細菌汚染を抑制する,コロナウィルスにも有効と報告されている.このような物理的抗菌技術を広く普及させるには,該当の微細構造を有する部材を,工業的に,短時間で安価に量産できる技術が必要不可欠である.本研究では,生産性が高い圧延加工により抗菌パターンを転写する方法に着目した.圧延はサンプル長さに制限がないため,連続加工ができる.リソグラフィとは異なり,薬品類の消耗品はほとんどない.円筒面である圧延ロール表面に微細な抗菌パターンを用意する必要が生じる.図4のパターンは60x60mm2に凸構造が1億4000万個ある.多点同時加工ができるフォトリソグラフィの長所が生かされる.過去,フォトリソグラフィとウェットエッチングによってロール円筒面上に微細構造を得たが,ウェットエッチングは等方性であったため,アスペクト比は最大で0.3にとどまった4).抗菌機能を発現するには,アスペクト比1程度の金型形状が必要になる.このため,新しいパターン転写法と5),めっき堆積を利用した硬質材料への変換を導入した.本研究助成に申請した時は,硬度HV750と金型利用の実績がある硬質クロムめっきを想定したが,めっき液がpH約1の強酸であるため,マスク材であるレジスト膜の耐性が不足して浸食された.光沢ニッケルめっきは,めっき液のpHが3-4であり,レジスト膜の耐性が十分得られる.硬度HV400-500が得られ,ステンレスSUS304のHV200-370よりも硬い.1)立体サンプルにレジスト成膜UVp2/2λ2)平面マスク越しに露光3) レジスト現像(a)1) シートにレジスト成膜と露光2) 立体にシートを貼り付け3) PVA溶解(b)4) レジスト現像p3D sample3D sampleresistmaskUVmaskresistPVA/PETresist− 196 −

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