天田財団_助成研究成果報告書2024
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2・3 応力発光体(ML)センサーによる粒子速度計測 応力発光体(ML)は内部に蓄積したエネルギーを,外部からの機械的刺激によって発光として解放する無機蛍光体である(図3(a)).弾性変形領域のような小さな変形でも発光し,繰り返し発光が可能である2).そこで,この 2・4 純金属材料に対する衝突試験 開発したLIPITを用いて,純鉄材料に対する衝突試験を実施した.直径12.7 mmの円筒形で厚さ10 mmに切り出した純鉄丸棒(純度99.9%,㈱ニラコ)を用いた.表面は鏡面仕上げをした後に転位の除去と結晶粒粗大化のため(㈱島津製作所,Hyper Vision HPV-X2,Cavilux)の3種類を使用した.撮影箇所は発射台から2 mm程離れたピンホール通過後の位置とした.撮影速度やシャッタータイミングなどの撮影条件は撮影毎に適切に変更した. 図2 LIPIT装置と高速度カメラによる撮影の様子 性質を利用した粒子速度計測手法を開発した.図1に示した発射台に対向するようにMLセンサーを設置し,そこに粒子が衝突した瞬間の時刻を捉えることで射出から衝突までの平均速度を求める(図3(b)).MLセンサーはアルミ箔(厚さ10 µm)と二液混合型エポキシ樹脂系接着剤に応力発光体粉末(ML-200,堺化学工業株式会社)を16.4 mg/gで混合した応力発光体(厚さ100 µm)で構成される.発光量の計測は光電子増倍管(PMT)で光子を電気パルスに変換しオシロスコープで出力した.単位時間当たりのパルス数が多いほど発光量が大きく,MLセンサーに加わった力に依存することから,本研究では累積パルス数が増加するタイミングを特定し,先頭粒子の衝突時間を推定した. 図3 (a) 応力発光体(SrAl2O4:Eu2+)のSEM画像 (b) MLセンサーによる粒子速度計測手法の概略図 それぞれに真空中での熱処理(900℃-12h)を施した.LIPITで衝突させた粒子は15ZrO2であり,対象の純鉄の結晶粒よりも明らかに小さいため,単結晶状態の粒子衝突試験となっている.また,負荷速度の比較として,同材料に準静的な押込み試験を実施した.圧子は半径10 µmの球状圧子を使用し,この圧痕形状はLIPITの衝突圧痕形状に近くなるよう最大荷重を250 mN,負荷速度を7.75 mN/sに設定した.LIPITにより生成した圧痕形状の観察には,走査型レーザー顕微鏡(オリンパス㈱,OLS4100)と走査型電子顕微鏡(FE-SEM,日本電子㈱,JSM-6400)を使用した.また,金属表面に対し,EBSD法による結晶方位解析を行った.加えて,断面観察には走査イオン顕微鏡(SIM)を搭載した集束イオンビーム装置(FIB,JEOL Ltd., JIB-4000)を使用した.なお,本研究では結晶粒界近傍の圧痕は除外し,結晶粒内の圧痕を中心に観察を行った.LIPITと準静的な押込み試験で作製した圧痕周辺に対して,微小硬度計を用いてナノインデンテーション試験を実施した.バーコビッチ圧子を使用し,負荷速度と最大荷重はそれぞれ,1.49 mN/s,10 mNとした. 3.実験結果 3・1 LIPITの粒子速度計測結果 高速度カメラで撮影した一例を図4に示す.1.3 µm/pixelの倍率で取得した画像であり,15ZrO2が飛翔する様子を捉えた.撮影速度は5 Mfps(シャッター間隔200 ns)のため200 ns間の移動量から速度を求めた.同様な方法で,3種類の粒子に関して撮影を実施し,先頭で飛翔する粒子の速度を算出した.MLセンサーによる速度計測に関しても,飛翔速度の異なる3種類の粒子(30ZrO2,15ZrO2,35HSS)を用いて,開発した手法によって粒子速度を求めた.計測される光電子のパルスは,発光体の無負荷時の燐光(ノイズ),飛散EA層衝突による発光,粒子衝突による発光の3つの要因に由来し,これらが混在する.そのため粒子速度を求めるためには粒子衝突による発光と,その他の発光を分離する必要がある.そこで,「粒子なし」と「粒子あり」の2条件で発光量を計測し,それぞれ粒子射出時刻から各時間までに発生した光電子を累積してプロットすると図5のような図を得た.2本の曲線は途中で発光量の差が発生して乖離するが,この発光量の差分は粒子衝突によるものと考えられるため,この乖離点が先頭粒子の衝突時刻となる.粒子射出時刻が0 sから乖離点の時刻まで粒子の飛翔時間であり,飛翔距離をこれで除して粒子速度を求めた.高速度カメラとMLセンサーで求めた粒子速度について,粒子質量との関係を図6に示す.それぞれの粒子において開発したMLセンサーは,高速度カメラと同様な粒子速度を計測できた.なお,開発したLIPITは15ZrO2において最高速度750 m/sに到達した.その他の粒子に関して,30ZrO2は400 m/s,35HSSは350 m/sで飛翔することがわかった. TravelingdistanceML sensorParticle− 191 −(a) (b)

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