2・2 高速度カメラによる粒子速度計測 1に本研究で使用したLIPITの概略図を示す.Nd:YAGレーザーから出力されたパルスレーザーは,集光レンズにて キーワード:材料試験,光学的試験法,材料評価,塑性加工,高速衝突 ら存在する.例えば,ショットピーニングなど微小粒子を高速に衝突させることで生成する塑性ひずみによる圧縮残留応力や加工硬化によって,材料の表面改質する技術で実用化されている.粒子衝突速度は速くとも100 m/s程度で,材料内部の実効的なひずみ速度は103 1/s程度である.その運動量に伴う塑性ひずみや加工硬化を,ショットピーニング法は利用している.材料の塑性変形は,転位運動論の観点からひずみ速度に依存し,一般的に高変形速度域になるほど加工硬化が生じやすい.この点の詳細は,スプリット・ホプキンソン棒法などの高速変形試験を用いて検討できるが,そのひずみ速度は103 から104 1/s程度であり,その速度域までの塑性変形挙動しか検討できない.さらなる高ひずみ速度の塑性変形挙動を明らかにする実験的手法は大がかりとなり,通常の研究機関では行えない.そこで近年J. H. Lee氏らが世界に先駆けてレーザーベースの微小粒子高速射出法の基本原理を開発し,各種材料の高ひずみ速度域における塑性変形挙動に関する研究を行っている1).これによると106 1/s以上の圧縮ひずみ速度に達しており,従来の材料試験技術では到達できない領域であり,未踏の領域であった.高速粒子射出法が完成すれば,新奇な金属結晶の微細構造が生成される可能性があり,表面改質に応用できると考えられる.さらに,摺動性に優れた表面加工やナノポーラス化,コールドスプレー(CS)法やエアロゾルデポジション(AD)法の原理解明に役立つと考えられる.CSやADは粒子が融解および融着し堆積するコーティング手法であり.既に実用化されているものの,融着挙動や,材料表面硬化の現象について未解明な点が多い.単一マイクロ粒子の高速衝突現象の理解が急務である.そこで本研究の目的は,レーザーアブレーションによるマイクロ・ナノ微小粒子の射出法の開発を行い,高速飛翔した微小粒子衝突の塑性変形挙動の解明や表面改質技術や材料加工への展開をすることである. 2.実験方法 2・1 レーザー誘起粒子衝突試験(LIPIT) 微小粒子を超高速で射出するLIPIT装置の駆動力は,局所的に高速変形を誘発できるレーザーアブレーションである.これにより,発射された微小粒子が対象材料に衝突1.研究の目的と背景 材料表面を塑性変形させて高強度化する技術は古くか中央大学 理工学部 精密機械工学科 (2021年度 一般研究開発助成 AF-2021011-B2) 教授 米津 明生 EA層表面に散布された微小粒子はレーザーアブレーションの瞬間的な大変形に伴い,試験片に向かって射出される.Glass substrateLaser− 190 −すると塑性変形による圧痕が生じることから,この圧痕の深さから高ひずみ速度における変形強度を評価できる.図直径0.4 mmに集光して発射台に照射される.発射台は透明な拘束層と黒色のエネルギー吸収層(EA層)からなる.拘束層は厚さ1.8 mmのガラス,エネルギー吸収層は厚さ30 µmの黒色粘着テープを使用した.拘束層を透過したレーザー光は,EA層に到達し,プラズマ化することで急激に体積膨張する.これをレーザーアブレーションと呼ぶ.本研究で用いた微小粒子は,平均直径30 µm,15 µmのジルコニア粒子(30ZrO2,15ZrO2)と平均直径35 µmの高速度鋼粒子(35HSS)の3種類である.粒子が射出する際に,EA層の一部が融解して飛散するが,これを本論文では飛散EA層と呼ぶ.図1のようにピンホールは高速度カメラでの撮影時のみ設置し,粒子と飛散EA層の絞りを行って,ピンホール通過後の粒子を撮影した.発射台から対象材料までの粒子飛翔距離は2 mmである. 一般に粒子が飛翔する速度は高速度カメラにて撮影し,コマごとの粒子移動量から算出する.本研究ではシャドウグラフ法による撮影のため,撮影箇所を高速度カメラと光源で対向させて設置した(図2).高速度カメラと光源は(㈱ナックイメージテクノロジー,Ultranac Neo,FireFly300W),(ノビテック㈱,Phantom TMX7510,Cavilux),Launch padEnergy absorption(E.A.) layerParticleLaser pulseDebris of E.A.PinholeTarget図1 開発したLIPITの概略図 レーザー誘起のマイクロ・ナノ粒子射出法による 超高ひずみ速度域の加工硬化と表面改質
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