天田財団_助成研究成果報告書2024
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/浸炭処理による表面改質を施し耐摩耗性を評価し,以下の結果を得た. (1)大気雰囲気で1073 Kを5分間保持することで酸化したTiC-Ti複合材料の表面はルチル型TiO2であり,厚さは約1.7 μm,押込み硬さは11 GPaであった.C粉末に埋没し1073 Kで40分間保持して浸炭したTiC-Ti複合材料の浸炭層の深さは約3 μm,押込み硬さは20 GPaであった. (2)ステンレス鋼ピンを相手材とした摩耗試験では,未改質サンプルではステンレス鋼が表面に凝着するのに対し,酸化サンプルでは酸化皮膜の剥離により摩耗が生じた.浸炭サンプルではステンレス鋼の凝着や摩耗は見られず,良好な摩耗特性が得られた. この後の段階として,開発したTiC-Ti複合材料を型材に用いたプレス加工を実施し,その実用化に向けた評価に取り組んでいく.また,高温酸化反応を通じて進行する自己修復特性の検証にも取り組んでいく. 本報告は,助成期間中に執筆したMaterials Transactions,2024年65巻3号に掲載されている論文の一部を和訳して執筆した6).また,関連内容がMaterials Transactionsの2024年65巻7号と,Springerが出版する書籍Environmental Sustainability and Resilienceで発表される予定である. 参考文献 謝 辞 Ti粉末とC粉末を用いてメカニカルアロイング後,焼結することで作製したTiC-Ti複合材料に酸化本研究は,公益財団法人天田財団の一般研究開発助成(AF-2021010-B2)により行われたものであり,ここに記して深く感謝の意を表す.本研究に関して貴重なご意見をいただいた広島大学松木一弘教授,崔龍範准教授へ厚くお礼申し上げる.放電プラズマ焼結の実験にご協力いただいた島根県産業技術センターの上野敏之氏に厚くお礼申し上げる. 1) 片岡征二:軽金属, 55(2005) p.39-46. 2) X. Zhang, F. Song, Z. Wei, W. Yang and Z. Dai: Mater. Sci. Eng. A 705 (2017) 153–159. 3) C. Suryanarayana: Prog. Mater. Sci. 46 (2001) 1-184. 4) N. Dalili, A. Edrisy, K. Farokhzadeh, J. Li, J. Lo and A.R. Riahi: Wear 269 (2010) 590–601. 5) T. Ouyang and J. Suo: Surf. Coat. Technol. 412 (2021) 127065. 6) 塚根亮, 松木一弘, 崔龍範, 玉井博康:Mater. Trans., 65(2024) p.323-330. 以上の結果を踏まえ,TiC-Ti複合材料とステンレス鋼の摩耗メカニズムについて考察する. 未改質サンプルではディスク表面の大部分はTiC相であるが,約20%は活性なTi相である.そのため,Ti相の部分でステンレス鋼との凝着が生じたと考えられる.相手材として用いたステンレス鋼ピンの摺動面にも相手材であるTiの付着が確認された.ピンに用いたステンレス鋼の硬さはTiC-Ti複合材料より小さく,アブレシブ摩耗も生じていた.したがって,ピンは凝着摩耗とアブレシブ摩耗が生じていた. 酸化サンプルでは,ディスク表面に形成されたルチル型TiO2が化学的に安定しているためステンレス鋼の凝着は起きなかった.摩耗試験後,図10に示すように酸化皮膜と摩耗痕の境界に亀裂が発生し剥離していた.酸化サンプルの硬さは評価した3種類のサンプルの中で最もステンレス鋼ピンに近い値であったため,ピンのアブレシブ摩耗が起きにくかった. 浸炭サンプルの表面に形成されたTiCは化学的安定性に優れているため,凝着はほとんどなかった.さらに,押込み硬さは3種類のサンプルの中で最も高く,ディスクは摩耗しなかった.ステンレス鋼ピンはアブレシブ摩耗が生じていたが,凝着摩耗は生じていなかった. 図10 摩耗痕付近の酸化皮膜に形成されたクラックのSEM写真 4.結び − 189 −

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