天田財団_助成研究成果報告書2024
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キーワード:複合材料,耐摩耗材料,TiC 1.背景 金属プレス加工等の塑性加工において金型摩耗の抑制や焼き付きを防止するために潤滑剤を使用することが一般的である.しかし,ワークへの潤滑剤の塗布や加工後の洗浄除去が必要となり,作業時間の増加や作業環境の悪化を招いている.また,現在プレス加工で使用されている潤滑剤の多くは石油系炭化水素が含まれており,焼却すると二酸化炭素が発生し,地球環境に負荷を与えている.そのため,潤滑剤を使用しないドライプレス加工の需要が高まっている. セラミックスは高硬度,低摩擦係数,耐摩耗性に優れており,SiCやAl2O3等のセラミックスを型材としてドライプレス加工を実施する試みが行なわれ,良好な結果が得られている1).セラミックスの中でもTiCはビッカース硬度が3000 Hvと高く,耐焼付き性に優れているため工具用コーティングとして活用されている.TiCコーティングした金型を用いることでドライプレス加工ができると考えられるが,コーティングは剥離の問題がある.TiCのバルク体を型材料として使用することも考えられるが,TiCは靭性に乏しく欠けやすい.そのため,TiCを金属材料と複合化し靭性を付与することを考える. 金属のTiは熱膨張係数がTiCと近く,TiCと複合化する金属として適していると考えられる.また,出発原料にTi粉末とC粉末を用いてC添加割合を調整したメカニカルアロイングを行い,その後に焼結することで製造プロセス中にTiCが合成されTiCとTiの複合材料を作製することができる2).この製造方法で形成されたTiC/Ti界面の強度は,出発材料にTiC粉末とTi粉末を用いて製造される従来方法の界面強度より高い.それに加え,TiC粒子の分散性も良いことが報告されている3). TiC-Ti複合材料の摩擦摩耗性,特に表面層の凝着しやすいTi相の摩擦摩耗性を向上させるために酸化処理による表面改質について検討する.酸化処理によるTiO2の形成はTiの摩擦摩耗特性の改善に効果的であることが報告されている4).また,チタンは自己修復材料として知られており5),損傷を受けても再酸化させることで元の特性を復元する可能性地方独立行政法人鳥取県産業技術センター 機械素材研究所 (2021年度 一般研究開発助成 AF-2021010-B2) 主任研究員 塚根 亮 がある. 以上のことから,当初の研究目的を次の3項目とした. 1) 型材料に適した特性を持つTiC-Ti複合材料の作製 2) 自己修復性を有するTiC-Ti複合材料の酸化皮膜の形成 本報告では,当初の研究目的の中からドライプレス加工を実現する型材料の開発を目指し,出発原料にTi粉末とC粉末を用いてメカニカルアロイング後,焼結することでTiC-Ti複合材料を作製した結果と,酸化処理に加え,浸炭処理の2種類の表面改質を施した複合材料の摩耗特性を評価した結果について報告する. 2.実験方法 2.1 TiC-Ti複合材料の製造方法 原料粉末として粒径45 μm以下のTi粉末および平均粒径5 μmのC粉末を使用した.C添加率を28 mol%とした粉末を直径10 mmの超硬製ボール25 個とともにAr雰囲気下のグローブボックスで80 mLの超硬製容器に封入し,遊星型ボールミルを用いて500 rpmで3時間混合した.ミリング粉末は放電プラズマ焼結装置により,真空下1273 Kで35 MPaを5 分保持することで行った. 2.2 酸化処理と浸炭処理 TiC-Ti複合材料の表面をSiC研磨紙(#2000 (JIS))で研磨後,酸化処理および浸炭処理を行った.酸化処理は大気雰囲気で1073 Kで5 分間保持することで行い,浸炭処理はC製容器にC粉末を充填し,TiC-Ti複合材料を埋没させ,C製容器をAr雰囲気下1073 Kで40 分間保持することにより行った.微細構造の観察は電界放出型電子顕微鏡(FE-SEM)を用い,付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDS)により組成分析を行った.相同定は40 kVおよび40 mAのCuΚα線を使用したX線回折(XRD)にて行った.改質層の硬さはBerkovich圧子を使用したナノインデンテーションテスタで最大荷重10 mNで測定した. 3) TiC-Ti複合材料のプレス加工用型への適用 − 184 −トライボロジー特性に優れた自己修復型TiC基複合材料の開発 -TiC-Ti複合材料の表面改質による耐摩耗性の向上-

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