天田財団_助成研究成果報告書2024
171/508

LHTD+P5•T5H13P5D10L601.研究の目的と背景キーワード:WC-Ni硬質皮膜,金型長寿命化,連続打ち抜き試験我が国の金属プレス製品製造業は,需要の約80%(生産額ベース)が自動車用部材であり1),世界的な競争力を維持している自動車産業にとって必要不可欠な産業分野である.近年の自動車に対する消費者のニーズは,自動車本来の走行・居住・積載性能の改善に留まらず,環境・エネルギー問題の解決,安全装備の装着義務化および自動運転技術の開発,というように多岐に渡っている.例えば,車体重量軽量化と衝突安全性を両立する観点から,ハイテン材と呼ばれる高張力鋼材の車体部材への適用が近年進められており,引張強度1000 MPaを超える素材が開発・採用されている.高強度素材の金属プレス加工に際しての主な問題点のひとつに金型摩耗に起因する金型寿命低減が挙げられる.金型摩耗による金型寿命低減および加工精度劣化については,素材/金型間の摩擦摩耗により進行する物理現象であり,金型への皮膜付加が有効な対策法のひとつとなる.これまでも金型表面へのCVDやPVDによる高硬度耐摩耗性皮膜が適用されてきたが,上述のハイテン材のような高強度素材成形においては素材/金型間面圧が高くなり,高硬度であるがじん性が低い従来皮膜ではクラックや剥離が発生するため,そこを起点としたかじりや焼付きを生じることが問題点として挙げられてきた2).このような背景から,耐摩耗性と高じん性を併せ持つ皮膜の開発は急務である.これまでの研究成果において,著者らが開発した「湿式めっき・ガス浸炭複合法」3)により形成したWC-Ni硬質皮膜は,汎用WC-Co超硬合金を上回る表面硬度および耐摩耗性を有し,なおかつスクラッチ試験においても皮膜剥離を生じない高じん性を併せ持つことを示してきた.また,この皮膜は成膜条件(熱処理および浸炭条件)を調整することにより,皮膜のWC結晶の粒径や方位を変化させることが可能であるという特徴を有しているため,加工対象に応じた硬さ-耐摩耗性のバランス制御が可能である.しかし,当該皮膜の金型への適用に関してはまだ未検討のため,現状では金型に適用した際の金型寿命向上効果に関する知見がない.そこで本研究では,以下の3点を達成することを目的として研究を遂行した.1.プレスによる連続打抜き試験に基づき,打ち抜きパンチに適用したWC-Ni硬質皮膜の摩耗メカニズム,および皮膜微細構造と耐摩耗性との相関を把握すること.2.耐摩耗性を向上させる微細構造を得るためのWC-Ni新潟大学自然科学系(工学部材料科学プログラム)(2021年度一般研究開発助成AF-2021007-B2)准教授大木基史2.実験方法2・1試験片3.本WC-Ni硬質皮膜を,大型かつ複雑形状の金型にも適硬質皮膜の成膜方法を確立し,それにより金型の長寿命化を達成すること.用可能とすること.図1にプレス加工の模式図を示す.プレス加工とは,金型(「雌型:ダイ」および「雄型:パンチ」からなる一対の加工用工具)に材料を固定し,油圧プレスからパンチに荷重をかけ材料を塑性加工する加工法である.プレス加工には金属板などの素材から不要な部分を切断し切り抜く打抜き加工,素材に圧をかけ目的に沿った形に曲げる曲げ加工,素材を圧縮させて形を変える圧縮加工などがある.本研究では、最も汎用的な打抜き加工パンチであるショルダーパンチを用いた連続打抜き試験による皮膜耐久性評価を実施するため,市販のショルダーパンチ(株式会社ミスミ製AL-SPAL10-60 P5)を基材としてWC-Ni硬質皮膜を施工した.本ショルダーパンチ基材の形状および寸法を図2に示す.本ショルダーパンチ基材鋼種であるSKD11は11~13%のCrが添加され,硬いCr系炭化物を多量に晶出させて耐摩耗性を良くした鋼材であり,冷間金型用鋼として広く用いられている.図2ショルダーパンチ基材の形状および寸法図1プレス加工の模式図nominal diameterlappingchamferingnothing or C0.3orC0.5− 169 −WC-Ni硬質皮膜の適用によるプレスせん断金型の長寿命化

元のページ  ../index.html#171

このブックを見る