図10に通電加圧加工法を用いて合成した希土類元素3mol%ドープしたMg3Sb2焼結体 (Mg3-xRExSb2, x=0.03) の室温における電子濃度を示す.CeO2,Pr6O11,Nd2O3,Gd2O3,Tb2O3,Dy2O3,Ho2O3,Er2O3,Tm2O3,Lu2O3の10種類の希土類酸化物を添加した場合,未ドープ試料よりも室温における電子濃度が大幅に上昇し,希土類元素は+3の価数の状態でMgサイトに置換し,n型ドーパントとして機能した.希土類ドープ試料の電子濃度は,16族のTe,Seドープ試料よりも高い値を示している.室温での電子移動度は,未ドープ試料が55 cm2/Vsの値であるのに対し,希土類ドープ試料では,23~48 cm2/Vsの値であった.一方,Sm2O3,Eu2O3,Yb2O3の3種類の希土類酸化物を添加した場合については,未ドープ試料よりも電子濃度が若干低下し,n型ドーパントとして機能しないことが分かった.同試料の格子熱伝導率は,未ドープ試料よりも低下しているため,Sm, Eu, Ybの3元素については,+3の価数ではなく,+2の価数の状態でMg3Sb2中のMgサイトに置換されていると考えられる.希土類系化合物の Sm, Eu, Ybの酸化状態については,通常の+3価以外に+2価が安図10 通電加工合成プロセスにより作製したn型 希土類ドープMg3Sb2の室温における電子濃度 Bi)2の合成に成功した. 13種類の希土類酸化物 (CeO2,Pr6O11,Nd2O3,Sm2O3,Eu2O3,Gd2O3,Tb2O3,Dy2O3,Ho2O3,Er2O3,Tm2O3,Yb2O3,Lu2O3) について検討を行い,希土類元素のドープ量x=0.03の割合になるように添加した.X線回折測定,FE-SEM/EDXによる構成相,微細組織観察の結果,希土類元素の偏析は認められず,希土類酸化物はMgもしくはMg3Sb2と反応することによって,希土類元素はMg3Sb2中のMgサイトに置換されると考えられる (式(4)). (1) 日本熱電学会:次世代熱電変換材料・モジュールの開発 ―熱電発電の黎明―, (2020), シーエムシー出版 (2) E. Zintl, E. Husemann: Z. Phys. Chem., 21B (1933), 138. (3) T. Kajikawa, N. Kimura, T. Yokoyama: Proc. 22nd International Conference on Thermoelectrics (ICT2003, La Grande Motte), (2003), 305. (4) H. Tamaki, H. K Sato, T. Kanno: Adv. Mater., 28 (2016), 10182. (5) 鴇田正雄: 粉体工学会誌, 30 (1993), 790. (6) 鴇田正雄: セラミックス, 49 (2014), 91. (7) (8) (9) J. Tani, H. Ishikawa: Physica B, 588 (2020), 412173. J. Tani, H. Kido: Intermetallics, 32 (2013), 72. J. Tani, T. Shinagawa, M. Chigane: J. Electron. Mater., 48 (2019), 3330. (10) G. R. Choppin, E. N. Rizkalla: Solution Chemistry of Actinides and Lanthanides, Handbook on the Physics and Chemistry of the Rare Earths, Vol. 18, Chapter 128. 定となる物質も報告されており10),本研究の結果と一致している.Mg3Sb2中の希土類元素の種類によって,熱電特性,輸送特性は大きく影響を受けることが明らかとなった. 4.結言 本研究では,Mg系熱電材料の通電塑性加工プロセスによるナノ・ミクロ微細組織制御により,さらなる高性能化のための指針を明らかにすることを目的とした.MgとSbの原料混合粉末からMg3Sb2を直接合成するための温度,圧力,雰囲気,出発原料のMg/Sb元素割合などの通電加工パラメータが熱電特性に及ぼす影響を詳細に検討し,n型半導体の特性を実現するための条件を明らかにした.本プロセスでは,大きく粒成長させたミクロ組織を短時間で得ることができるため,高移動度が実現できる.また,通電加工プロセスと酸化物還元法を組み合わせることで, SbサイトへのBi置換やn型ドーパントとして有望な希土類元素の系統的ドーピングなどのナノレベルでの結晶構造制御の実験を行い,その熱電特性,輸送特性に与える影響について明らかにすることができた. 本研究は,公益財団法人天田財団一般研究開発助成(AF-2020023-B3) の支援を受けて実施されました.心より厚く御礼申し上げます. 謝 辞 参考文献 − 139 −
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