ク係数は共に負の値を示し,n型半導体の挙動を示した.一方,真空中,1023Kの加工条件では,ゼーベック係数は負の値を示したが,1073Kの加工条件ではゼーベック係数は正の値となり,p型半導体の特性を示した.図7にMgとSbの元素割合を変化させた出発原料を用いて,Ar雰囲気下,973Kの温度条件で通電加工したMg3Sb2焼結体のゼーベック係数を示す.ゼーベック係数は,低圧He雰囲気下,室温~773Kの領域において,昇温時と降温時のサイクル測定を行った.Mgを過剰としたMg/Sb=4.25の場合,ゼーベック係数は,昇温測定,降温測定ともに負の値を示し,n型半導体の挙動を示した.Mgを若干過剰としたMg/Sb=3.25の場合,ゼーベック係数は,昇温測定時には負であったが,降温測定時には正となり,測定中にn型からp型に変化した.減圧下での測定条件のため,高温領域においてMg3Sb2焼結体表面からMgの揮発が生じ,キャリアタイプの変化が起こった結果と考えられる.Mg3Sb2の化学量論組成のMg/Sb=3.00とした場合,ゼーベック係数は,昇温測定時,降温測定時共に正となり,p型半導体の特性を示した.以上のことから,Mg3Sb2焼結体の熱電特性は,通電加工時の雰囲気,温度,出発原料のMg/Sbの組成比などの条件の影響を受けることが明らかとなった.MgとSbの混合粉末を出発原料とし,本通電塑性加工法を用いて,直接n型Mg3Sb2の合成を行うプロセスにおいては,Ar雰囲気下の条件で,出発原料のMg/Sb元素割合は,Mg3Sb2の化学量論組成よりもMg過剰率を上げる必要がある.3・3酸化物還元法による不純物ドーピング酸化物還元法は,Mg系材料と酸化物の還元反応により,微細組織制御とドーピングの同時実現が可能な手法であ図8Bi2O3ナノ粉末添加Mg3Sb2焼結体のFE-SEM写真およびEDS分析結果り,我々はMg2SiやMg2Snなどで報告した8,9).本研究では,Mg3Sb2系において,通電加圧合成法と酸化物還元法を組み合わせることで,Bi置換と希土類元素ドーピングによる影響を調べた.出発原料粉末のMg,Sb,酸化物を乳鉢でよく混合した後,カーボン製ダイに充填し,通電加圧加工法を用いて40 MPaの加圧下,Ar雰囲気中,1073Kにおいて10分間保持することで,緻密な焼結体を作製した.図9Bi2O3ナノ粉末添加Mg3Sb2焼結体の熱伝導率Mg3Sb2とBi2O3および希土類酸化物の還元反応により,Mg3Sb2のSbサイトもしくはMgサイトにBiもしくは希土類元素が置換する(式(3),(4)).Mg3Sb2+ x/2 Bi2O3Mg3Sb2+ x/2 RE2O3(RE=希土類元素) Bi2O3ナノ粉末を2.5mol%添加して合成したMg3Sb2焼結体(Mg3Sb2-xBix, x=0.05)のXRD測定およびFE-SEM/EDS分析の結果,主として粒界付近において酸素濃度の増加が認められ,MgO(Periclase,ICDD PDF#01-074-1225)の僅かな生成が認められた(図8).Bi元素は均一に分布しており,偏析は認めないことから,式(3)の反応により,Bi元素がSbサイトに置換したと考えられる.2.5mol%Bi2O3ナノ粉末を添加した時の熱伝導率を未ドープ試料と比較すると(図9),298Kにおいて14.8%,773Kにおいて5.9%の低下が生じていることから,BiのSbサイト置換による格子熱伝導率低下の結果と考えられる.Biは低融点金属であり,MgとBiの混合粉末から,直接通電塑性加工を行うとBiは融点以上で液体となり,ダイとパンチ棒のクリアランスから,Bi融液の一部が漏れ出るため,組成の制御が難しい.出発原料にBi2O3を添加することで,本通電加工法でBiを導入したMg3(Sb, → Mg3Sb2-xBix+ xMgO + x/4 O2 → Mg3-xRExSb2+ xMgO + x/4O2 (3)(4)− 138 −
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