天田財団_助成研究成果報告書2024
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キーワード:マグネシウム系半導体,熱電変換材料,通電塑性加工 未利用の廃熱を電気エネルギーとして回収する熱電発電の実用化に期待が集まっている1).1, 2族のアルカリ金属またはアルカリ土類金属と13~16族の典型元素との化合物であるZintl相は,高い熱電特性を示す有望材料が報告されているが,大気中で不安定なものも多く,その微細組織と物性の相関は未解明な点が多い.1933年ZintlとHusemann2)が発見したMg3Sb2は,p型半導体としての報告はされてきたが3),その熱電無次性能指数 (ZT=S2T/ρκ, S : ゼーベック係数, T : 絶対温度, ρ : 電気抵抗率, κ : 熱伝導率) はBi-Te,Si-Ge,Pb-Teなどの代表的な熱電材料の特性 (ZT=~1) より劣るため,あまり注目されてこなかった.2016年,Tamakiら4)により高性能n型Mg3Sb1.5Bi0.5 (ZT=~1.5) が発見され,同分野の研究者に大きなインパクトを与えている.Mg3Sb2系材料の合成は,主に遊星型ミルを用いたメカノケミカル反応の報告がされてきたが,不活性雰囲気下で長時間要するなどの問題点があった. (PECS:Pulse Electric Current Sintering) は,直流パルス通電を用いた熱間加圧プロセスであり,金属,セラミックスなどの合成,焼結,表面処理,パルス通電焼結法 接合などの用途で利用可能な省エネ・低環境負荷型の次世代の塑性加工技術として期待されている5).急速昇温も可能であり,微細組織制御の観点からも大変興味深く,PECSに対する産業界からの期待は大きい6). 最近,我々は,通電加工プロセスによりMgとSbの構成元素粉末を直接反応焼結させることで,平均粒子径が数十~数百ミクロンに巨大粒成長した高性能のn型Mg3Sb2の作製に成功した7).Mg3Sb2系熱電材料の通電塑性加工プロセスによるナノ・ミクロ微細組織制御により,さらなる高性能化のための指針を明らかにする必要がある.本研究では,通電塑性加工プロセスを用いたMg3Sb2の合成機構を解明するために,温度,圧力,雰囲気などの各種パラメータの影響を詳細に検討した.また,Mg3Sb2系熱電材料の高性能化を図るために,同手法と酸化物還元法を組み合わせることで,有望なn型ドーパントの探索などの検討を行った. 1.研究の目的と背景 近年,地球環境問題やエネルギー問題が深刻化しており,大阪産業技術研究所 電子材料研究部 (2020年度 一般研究開発助成 AF-2020023-B3) 研究室長 谷 淳一 2.実験方法 2・1 通電加工プロセス 出発原料として,図1に示すMg粉末 (高純度化学社製,純度:>99.5%,平均粒子径:138 µm),Sb粉末 (高純度化学社製,純度:>99.9%,平均粒子径:5.3 µm) を用いた.また,酸化物還元法による不純物ドーピングの実験の際には,添加する酸化物として,Bi2O3ナノ粉末 (Aldrich社製,粒子径:90-210 nm,純度:99.8%),高純度希土類酸化物粉末 (純度:>99.9%) を用いた.出発原料粉末を乳鉢でよく混合した後,その混合粉末をカーボン製ダイ (内径12.7 mm) に充填し,通電加圧焼結装置 (SPS-1020, 住友石炭鉱業) を用いて40 MPaの加圧下,Ar雰囲気もしくは真空中 (<4 Pa) において,温度プログラムに従って通電加工を行った.加工温度の制御はダイの側面中央部に熱電対を挿入することにより行った.得られた焼結体は, ダイヤモンドホイールで研削した後,アルキメデス法により密度を測定した. 図1 出発原料の電子顕微鏡写真 (a) Mg粉末, (b) Sb粉末 − 135 − 通電塑性加工によりナノ・ミクロ組織制御された 高性能Mg系熱電材料の創製

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