天田財団_助成研究成果報告書2024
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キーワード:摩擦攪拌接合,表面被覆,めっき,接合温度,塑性流動 2.実験方法 2・1 供試材料 摩擦し,その摩擦熱により軟化した材料を攪拌することで練り混ぜ,一体化させる接合法である.そのため,FSWには材料を練り混ぜるための塑性流動が重要となるが,これには摩擦熱に起因する接合温度が大きな影響をおよぼす.しかしながら,他の接合法と比べ,FSWにおいては接合温度に関係する接合条件の制約が大きい.具体的な例としては,接合温度を高くするには基本的に回転速度を上昇させるしかなく,入熱として考える場合であっても回転速度と接合速度程度しか条件変更はできない.また,FSWはツール回転方向と接合方向との関係により,必ず前進側(AS)と後退側(RS)が存在し,接合部に温度分布が発生する.このようなFSW時の接合温度に関する特徴を踏まえ,様々な温度制御の検討がなされている.例えば接合部を急速に冷却するために,水中でFSWを行う方法1),外部から液体CO2を供給して接合部を冷却する方法2),ツールの温度上昇を抑制するため,ツール内部に冷却水を供給する方法3),逆に接合温度を上昇させるため,レーザを使用して材料を余熱する方法4)が提案されている.それでも,これらの手法は比較的大掛かりな装置を必要とするなど,FSW時の接合温度制御方法として困難な点を有する.また,FSW特有の温度分布の制御は困難で,その中でも加熱は比較的容易なものの,冷却は困難な状況である. このような背景をもとに,FSWの接合部について考えると,接合温度はFSW時の塑性流動挙動に直接的な影響をおよぼすことから,接合温度が接合部の特性を決定づけているとも言える.この時,FSWにおける接合温度の特徴から,接合部における温度分布を制御することが重要であると考えられる.しかしながら,前述したように困難を伴うのが現状である.それでも,FSWにおける接合部温度を制御できる手法があれば,継手特性改善,ツールへの負荷低減および接合条件範囲の拡大などが期待できると考えられる.そのためには,特別な機器を必要とせず,比較的簡便に行える接合温度制御法の開発が望まれる. そこで,本研究では,FSWの熱源である摩擦熱の発生場所に注目した.すなわち,摩擦面である接合材料およびツールショルダ表面であるが,同種材にも異種材接合にも対応できるよう接合材料表面を対象とし,表面被覆により接合材料表面の摩擦熱を制御することを試みた.このように,接合材料表面に予め表面被覆を行うことで,一般的なFSW装置を使用することができる接合温度制御方法の基礎的1.研究の目的と背景 摩擦攪拌接合(以下,FSW)は,ツールを用いて材料を近畿大学 工学部 機械工学科 (2020年度 一般研究開発助成 AF-2020021-B3) 教授 生田 明彦 知見を得ることを本研究の目的とした.そのため,接合材料よりも低融点および高融点の材料の表面被覆にめっきを用い,接合材料を様々に配置した場合のFSW時における温度測定を行うことにより,本手法の特徴を明らかにした. 本研究において,接合材料として使用したアルミニウム合金は,幅25または50mm×長さ75mm×厚さ3mmのA5052-H34(以下,A5052)である.アルミニウム合金に行った表面被覆は,高融点材料としてNiめっき,低融点材料としてSnめっきを行った.この時の各めっきは,Niの場合,膜厚約10µmの無電解Niめっきを行い,Snの場合,下地処理として膜厚約1µmの無電解Niめっき後,膜厚約10µmのSn電気めっきを行った.めっきを行ったアルミニウム合金の断面観察結果を図1に示す. 2・2 摩擦攪拌接合方法 FSWは,図2に示すようにショルダ径12mm,プローブ径4mmおよびプローブ長さ1.9mmのツールを使用した.なお,ツール材質は熱処理したSDK61である.接合部の温度測定を行ったFSW条件は,ツール回転速度1500rpm,ツール圧入量1.9mm,接合長さ50mmおよび前進角3°で一定とし,接合速度を100~500mm/minで変化させた. 図1 めっきを行った材料の断面観察結果 a) Niめっき b) Snめっき − 126 −表面被覆を用いた摩擦攪拌接合における塑性流動の制御

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