キーワード:バニシング加工,表面改質,バリ取り 剪刀がある.マイクロ剪刀とは,脳外科手術で使用される長さ数 mmから十数 mm 程度の刃先を持つはさみであり,柔軟な生体組織を術者の意図に倣い的確に切断できる切れ刃性能が求められる.現在のマイクロ剪刀の製造工程として,まず各部品がNC工作機械によって板状素材から設計された形状に切削加工される.その後,切削加工により生じたバリの除去,刃先の研ぎ,調子合せといった仕上げ工程が手作業によって行われて完成となる.この仕上げ工程である手作業が,品質の不安定化,製造時間の伸長,技能者の確保および育成といった懸念点を招いているのが現状である.そのため,NC工作機械上で,前述の手作業で行われている仕上げ工程も実施できれば,有用な加工法となる. チップバニシング加工は先端が球頭形状を呈する工具をボールエンドミル加工と同様の加工形態で対象面に押付け,定力下でしゅう動させることで表面の微小凹凸ならびに表層材料を塑性変形させ,金属表面の平滑化を図る加工法である.本加工法は表面の平滑化とともに,工作物表層の塑性変形に由来する圧縮残留応力と加工硬化をもたらすため,疲労強度,耐摩耗性が向上する表面改質効果も得られる1).また,切削加工を行った工作機械上で工具を付け替えることで,そのまま実施できるため,自動工具交換機能を有する工作機械を用いることで,工程の集約化,製造時間の短縮,製造スペースの狭小化が図れる.本研究室では,このチップバニシング加工に対し,工具を高速回転させながら,なおかつ,その回転軸を対象面法線方向から傾斜させることで,工具と工作物間に高速のしゅう動作用を発現させ,表面の平滑化および表面改質を効率的に実施できる工具回転型チップバニシング(以後,回転バニシ)加工に係る研究に取り組んできた.回転バニシ加工では,しゅう動作用を発現させる方向を制御することで,表層材料の流動方向を制御できることを明らかにしている2).そこで本研究では,マイクロ剪刀をはじめとした刃物製品のような外縁部に向かって板厚が薄くなる製品の縁部仕上げ工程に回転バニシ加工を適用することで,縁部のバリ除去ならびに鋭利な刃先形状の創成を同時に自動化できるとの着想に至り,これを本研究の一つ目の目的とした. 1.研究の目的と背景 ■鋭利な刃先形状が要求される刃物製品としてマイクロマイクロ剪刀が使用される脳外科手術の作業空間は大変狭く,脆弱な組織や微細な血管が張り巡らされているため,無駄な力を要せずに目標の部位の切断ができる切れ味が要求されている3).現在,このような生体組織を対象とした刃物の切れ味の評価方法としてマテリアルシートと呼ばれる生体組織の機械的特性を模擬したシートが用いられており,このマテリアルシートをマイクロ剪刀などの切れ刃で切り込み,切れ味の確認が行なわれている.しかしながら,その性能評価は試験者の経験に基づく感性が含まれており,定量的な評価がなされていないのが現状である.そこで本研究では,マイクロ剪刀をはじめとした刃物製品の切断性能について定量的な評価をするための切断性能評価試験機を開発する.加えて,開発した試験機を用いて,切れ刃形状が切断性能に及ぼす影響について基礎的な検討をすることを二つ目の目的とした.本報では,これら2種類の研究目的に沿った実験を,それぞれ実験1,2と定義する. 2.回転バニシ加工による鋭利刃の創成実験 回転バニシ加工のための実験装置を図1に示す.加工機には精密卓上型3軸ロボット(RAP3L-171707-1552-SP,コムス㈱)に高速モータスピンドル(BMS-4040,ナカニシ㈱)をZ軸方向から傾斜させて固定し,先端が球頭形状の工具を設置した.工具には球頭形状(R = 1.5 mm)のDLCコーテッド超硬工具を用いた.著者らはこれまでに,DLCコーテッド超硬工具により,良好な仕上げ面が得られることを明らかにしている4).工作物はばねを介して3軸ロボットのテーブル上に固定し,ばねの縮み量に応じて工具の工作物への押付力Ft [N]を制御した.バニシ工具の回転によるしゅう動速度vs [m/min]は工具と対象面間の接触点における理論的な周速度と定義し,工具傾斜角,工具回転数,工具先端半径により決定した.なお,バニシ加工における仕上げ面は,前加工面粗さの影響を受けるとされている5).そのため,いずれの前加工面においても,その表面形状を揃えた.前加工面を得るための切削条件は,R = 0.5 mmのボールエンドミルにより,工具送り方向を-X方向,クロスフィード方向を+Y方向,クロスフィード量0.03 mm,切り込み量0.03 mmとした.本研究では,回転バニシ加工を仕上げ工程に適用すること − 87 −福井大学■工学系部門■機械工学講座 ( ■■■年度■一般研究開発助成■■■■ ■■■■ ■■■■)■教授■岡田■将人 ff実験■■■ 医療用材料の極表層の微細塑性変形を活用した マイクロ剪刀刃先に適した機能性表面の創成
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