天田財団_助成研究成果報告書2023_2
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キーワード:結晶塑性有限要素法,プレス加工,純チタン板,マグネシウム合金板,集合組織 1.緒言■輸送機器の軽量化やニーズの多様化に呼応して,今日では種々の金属板が構造部材に用いられている.部材の適切なプレス成形条件を実験だけから見出すことは極めて難しい.そこで,工程設計に有限要素法(FEM)解析を活用することがもはや一般的である. 板材のプレス成形過程をFEMにより適切に解析するためには,数多くの解析条件の設定が不可欠である.例えば材料モデルの観点で見ると,素材の巨視的な塑性変形特性の評価,材料構成式の選定,そして材料パラメータの同定という一連の作業が必要である.また,現状のFEM解析で一般的に用いられる現象論に基づく材料構成式では,巨視的な塑性変形特性の評価に際しては面内反転負荷試験や二軸負荷試験など多様な変形モードを考慮する必要がある.しかしながら,これらの実験を行うには多くの設備,労力,時間,コストが求められる.そのため現実的には,十分なデータの取得に至らず解析で素材の特性を適切に考慮できない場合が多いといった問題がある. この問題に対して近年,結晶塑性モデルの活用が注目を集めている.結晶塑性モデルでは,結晶粒レベルの微視的変形を数式化することで微視的変形の結果として生じる巨視的塑性変形を予測できるのが大きな特長である.したがって,結晶塑性モデルにより前述の多様な塑性変形特性を数値的に予測できるだけでなく,結晶塑性モデルを直接FEM解析で用いることで解析精度の向上を実現できる可能性がある. 一方,結晶塑性モデルやその活用法は未だ発展途上段階であり,結晶塑性モデル自体の高度化,パラメータ同定法の確立,塑性加工解析への適用拡大など,解決すべき問題が残されている.特に今後の産業利用とその拡大を見据えると,種々の材料に関する塑性加工解析への適用の推進は重要と考える. 以上を踏まえて本研究では,結晶塑性モデルの実際的な塑性加工解析への応用とその解析精度の向上を目的とした.この目的を達成するため,(1)数値材料試験に資する結晶塑性モデルの検討,(2)数値材料試験として活用することによる現象論材料構成式のパラメータ同定とその精度検証,(3)結晶塑性モデルのプレス成形FEM解析への応用,の3つのフェーズに分けて研究を推進した.本稿では紙面の都合上,(3)の結果のみ報告する.(1)1-12),(2)13,14)については,既発表文献を参照されたい. 京都大学大学院エネルギー科学研究科■エネルギー応用科学専攻■( ■■■年度■重点研究開発助成■課題研究■■■■ ■■■■■■■■■)■教授■浜■孝之■2.円筒深絞り成形実験■■本稿では,2種類の材料を対象として円筒深絞り成形の実験と結晶塑性FEM解析を行った事例を報告する.一つ目は,公称板厚が1.0mmのJIS2種工業用純チタン圧延板(新日鉄住金製)15)である.純チタン圧延板の深絞り成形では,塑性変形挙動における面内異方性や引張-圧縮非対PunchDieFig. 1 Experimental setup for the cylindrical cup drawing.称性に起因して顕著な耳が形成される一方で,その予測が難しい.そこで,結晶塑性モデルによる予測可能性の検証を目的として解析を実施した.二つ目の材料は,公称板厚が1.0mmのMg-1.5mass%Zn-0.1mass%Ca (ZX10マグネシウム)合金圧延板(住友電工製)16)である.ZX系マグネシウム合金板は室温でのプレス成形を実現しうる材料として研究開発されてきたが,その絞り成形性については十分理解されていない.そこで,結晶塑性解析によりその変形メカニズムの解明を試みた. ■本研究で用いた実験装置の外観をFig.1に示す.パンチおよびダイ穴の直径はそれぞれ27.8mmおよび30.0mm,パンチおよびダイの肩半径はそれぞれ5.0mmおよび7.0mmとした.円形状試験片の直径は,純チタン板では50.0mm,マグネシウム合金板では40.0mmとした.ダイとブランクホルダの間の間隙は1.1mmで固定した.潤滑剤として固形潤滑剤(モリペースト,住鉱潤滑剤)を試験片に塗布した.パンチ速度は5.0mm/minとした.なお,純チタン板の成形では焼き付きがしばしば問題となるが,本研究では確認されなかった. − 65 − Fig.1 Experimental setup for the cylindrical cup drawing. Blank holder結晶塑性モデルにより素材の多様性を緻密に考慮した■次世代塑性加工シミュレーション技術の開発■

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