キーワード:マグネシウム合金,マルチモーダル,機械的性質,破壊靱性 要がある。しかしながら、材料中のき裂進展に対する抵抗力である破壊靭性値において、Mg合金は、Al合金のおよそ半分程度であり、高強度LPSO型Mg-Zn-Y合金においても破壊靭性特性は一般的なMg合金とほとんど変わらない。そのため、LPSO型Mg-Zn-Y合金を航空機の構造材料として適用するためには、さらなる破壊靭性特性の向上が必要である。破壊靭性を向上させるためには、(1) 強度と延性を同時に向上させること、(2) 高い加工硬化能を発現させることが重要となってくる。近年、材料にマルチモーダル組織を形成させた材料において、高強度と高延性の両立を果たすことができるため注目を集めている。このマルチモーダル組織は、延性を担う粗大粒や強度を担う微細粒・析出物が混在した不均一性を有する組織である。最近の研究において、急速凝固粉末冶金法で作製されたLPSO型Mg-Zn-Y合金は、塑性加工前に熱処理を施すことで、KIC値15-20 MPa m1/2と高い破壊靭性値を示すことが明らかとなった [1]。従来のナノサイズの結晶粒のみで構成されたLPSO型Mg-Zn-Y合金急速凝固固化成形材と異なり、押出前熱処理を施したLPSO型Mg-Zn-Y合金急速凝固固Al合金に代わり、航空機の構造材料にMg合金を適用する場合、強度だけでなく、安全性・信頼性を担保する必熊本大学■工学部材料・応用化学科■物質材料工学教育専攻■( ■ ■年度■奨励研究助成(若手研究者枠)■■■■ ■ ■■■■■■ ) 助教■井上■晋一■化成形材は、繊維状に伸長した加工粒、粗大な再結晶粒、微細な再結晶粒、LPSO相が混在した2相3領域のマルチモーダル組織を形成しており、マルチモーダル組織形成が材料の強靭化に重要であることが明らかになりつつある。 また、急冷法を用いないLPSO型Mg-Zn-Y鋳造合金押出材においても、2相3領域のマルチモーダル組織が形成することが報告されているが、LPSO型Mg-Zn-Y鋳造合金押出材の破壊靱性値KQは10-12 MPa m-1/2程度である。LPSO型Mg-Zn-Y鋳造合金押出材のマルチモーダル組織の形成は、LPSO相の分散度や結晶粒径などの初期組織に影響を受けると考えられている。そこで、本研究では、高強度・高靱性LPSO型Mg-Zn-Y鋳造合金押出材設計指針の確立を目的とし、AlやYbといった合金元素の添加、押出加工前の熱処理といった初期組織制御と押出加工条件が機械的性質、破壊靱性およびマルチモーダル組織形成に及ぼす影響を調査した。 2.実験方法 試料となるMg合金は、Mg-1Zn-2Y-0.1Yb, Mg-1Zn-2Y-0.3Al, Mg-1Zn-2Y-0.3Al-0.1Yb (at.%)の組成を高周波誘導溶解炉によって、原料をカーボン坩堝内で溶解させて、Ar雰囲気中で鉄製鋳型に鋳造した。押出前の熱処理は、溶体化処理773 K x 12 h, 時効処理 573 K x 5, 12, 24, 48, 72 hの条件で実施した。 鋳造ビレットを旋盤でφ29 mm × 70 mmに加工したのち、押出比10:1、押出温度623 K、ラム速度1.5, 2.0, 2.5, 4.0, 4.5, 5.5, 6.0 mm s-1で押出加工を施し、鋳造合金押出材を作製した。機械的特性を調査するために、ひずみ速度5 × 10-4 s-1で室温引張試験を行った。また、破壊靱性試験を1CT (試験片幅W = 50 mm)試験片の1/6のサイズの試験片を用いた。予き裂導入後の開口試験は、試験速度0.55 MPa m-1/2で行った。Mg-Zn-Y系合金の組織観察に光学顕微鏡、SEM 、EBSD、TEM、HAADF-STEM/EDSを用いた。 3.結果 押出比10、押出温度623 K、ラム速度2.5 mm s-1の条件で押出加工を施したLPSO型Mg-1Zn-2Y鋳造合金押出材は、0.2%耐力330 MPa、伸び6%である [2]。押出加工によって、-Mg相の微細な再結晶粒領域、繊維状の加工粒領− 382 −1.研究の目的と背景 ■マグネシウム合金(Mg合金)はその軽量性から輸送機器等の構造材料としての利用が古くから期待されているが、(1) 双晶変形発生による強度不足、(2) hcp構造に由来する難加工性、(3) 化学的高活性による低耐食性と易燃性、(4) アルミニウム合金より低い靭性といった克服すべき明確な課題が存在する。そのため、既存の商用Mg合金の特性を凌駕する新合金の開発が望まれている。このような状況の中、ZnとYを極少量添加した新規Mg-Zn-Y急速凝固粉末冶金合金/鋳造押出合金が開発され、高い強度を有することから注目されている。これらMg-Zn-希土類(RE)合金の優れた機械的性質の発現には、α-Mg母相中に晶出ないし析出する長周期積層(LPSO)構造相が強化相として大きな役割を果たしていることが明らかになりつつあり、LPSO型Mg合金という新たな合金系が学界のみならず産業界でも知られている。急速凝固粉末冶金法で作製されたLPSO型Mg-Zn-Y合金は、500 MPaを超える高強度と組織均質化による高耐食性を示すことから、航空機部材としての適用に期待が持たれている。 初期組織制御を巧みに利用したマルチモーダル組織制御による 高強度・高靭性Mg合金の材料設計指針の確立
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