天田財団_助成研究成果報告書2023_2
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キーワード:工具鋼,プラズマ窒化,ローラバニシング加工,窒化層 が,近年環境への影響や非鉄系金属への処理ニーズから,プラズマ窒化処理が広く用いられている5~6).プラズマ窒化処理法は近年アクティブスクリーンプラズマ窒化処理法や大気圧プラズマ窒化処理法など新しいプラズマ窒化処理法が開発されている7)~10).これらプラズマ窒化処理の処理速度は比較的遅く,要求される機械的特性を満たす窒化深さを得るために長時間を必要とする11).窒化処理された際には,窒素が金属中に固溶した拡散層と最表面にはFe3NやFe4Nなどの窒素の化合物による化合物層が形成する.そのうち,化合物層は硬く,耐食性も高いが脆く,表面粗さを悪化させる特徴を備えている12)~13).表面粗さの悪化は,化合物層の窒化物結晶が成長すると条件にもよるが表面から数m程度突出するためである.特にポーラス層ではその性質から表面での凹凸が大きく,表面粗さが増大する.そのため,処理物の表面性状を維持するために脆く表面粗さが悪化しない化合物層を形成しない方法が求められ,化合物層の形成を制御する光輝窒化処理法が行われている14)~16).しかし,この方法はプラズマ中の窒素イオンの被処理物への入射を抑制したり,活性窒素種の量を制御したりするため,さらに長時間を必要とする17).このため,表面性状を維持するとともに窒化処理速度が速い処理方法が求められている. プラズマ窒化処理の処理速度は大きく分けて,プラズマ密度や処理温度などのプラズマ処理環境と,構成元素,結晶構造,結晶粒径,格子欠陥密度などの処理物の環境の2つに依存する18)-20).中でも格子間拡散に比べ,転位拡散や粒界拡散などの短回路拡散は,拡散に必要な活性化エネルギーが低く,拡散係数が高い.すなわち窒素の金属中の拡散を促進させ,窒化処理時間を短縮させる一つの重要な要素となる21)~25).この点に関して様々な報告がなされているが,例えばShenら19),菊池ら22)やJayalakshmiら26)は窒化処理の前処理としてピーニングや微粒子ピーニングを行うことで窒素の金属中への拡散速度が上昇することを報告している.また,同様な目的でFerkelら21),Balusamyら23)やTongら24)は前処理として強加工を用いて窒化処理速度の向上を図った報告がなされている.さらに1.緒言 ■金型や機械部品などに対して,耐摩耗性や疲労強度の向上を目的として窒化処理が広く行われている1)~4).窒化処理には,ガス(軟)窒化処理,塩浴軟窒化処理などがあるは,孟らは高圧下ねじり加工したフェライト合金に対して前加工が組織や窒素濃度分布に及ぼす影響を報告している27).これらの報告では主に窒素の拡散促進の観点から前処理を行っている.すなわち,表面に大きな力を加えるため表面粗さが増加し,光輝性を維持することはできない.これは表面性状が重要とされる部品に対する処理において,表面性状を維持するとともに,処理速度を向上させるという要求を満たさない.したがって,窒化処理の前処理を施す際において結晶粒を制御しつつ,表面性状を考慮しなければならない. ■表面を塑性加工する方法の1つにローラバニシング加工がある.この処理法は切削加工を行った表面にローラを押し当てることで,切削時に生成された凹凸を加工により除去し,表面粗さを減少させる処理法である28)~29).この処理法では,表面粗さを向上させるだけでなく,表面を塑性変形させ圧縮残留応力を付与するとともに表面硬さを向上させることができる加工法である28)~29).よって,この方法をプラズマ窒化処理法の前処理として行うことで,表面粗さが小さく,かつプラズマ窒化処理の処理時間が減少することが期待される. 本研究では,処理前の表面性状を維持するとともに窒化処理時間の短い処理方法を開発するため,電子ビーム励起プラズマ(Electron Beam Excited Plasma; 以下EBEP)中で,前処理としてローラバニシング加工を施した試料に光輝窒化処理を行い,ローラバニシング加工が窒化層の形成に与える影響を明らかにした. 2.実験装置,実験条件および評価方法 ■ ・■■本研究で用いた試料■■本研究では,熱間金型用合金工具鋼であるSKD61を用いた.Cr,Mo,V,Wなどの合金元素は一般的に窒化物を形成する元素であり,表面の硬さを増加させる30).しかし,同時に窒素の金属中への拡散にも影響をおよぼし,拡散層深さを減少させる傾向が見られる30).本研究で用いたSKD61はCr,Moなどの合金元素が多く含まれていることから,表面の硬さは増加しやすいが,拡散層の成長が律速されている可能性がある.試料の寸法および形状は直径20mm,厚さ10mmのディスク型とした.焼なまし材を使用し,ローラバニシング加工及び窒化処理前の硬さは250HV0.01であった. − 367 − 大同大学■工学部■機械工学科 ( ■ ■年度■奨励研究助成(若手研究者枠)■■■■ ■ ■■■■■■ )■准教授■宮本■潤示 表面塑性加工を利用した 工具鋼の高速光輝プラズマ窒化法の開発

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