キーワード:摩擦攪拌プロセス,ツール摩耗,超硬合金,低炭素鋼,表面合金化,固溶,加工誘起変態 1000 rpm,移動速度100 mm/min,挿入深さ0.8 mm,後退側傾斜角3 deg.(著しいツール摩耗を生じる高入熱条件)でFSPを施工した. FSPによる攪拌部表層へのツール元素分布と組織形態との対応を調査するため,断面に対してEPMAとEBSDを行った.代表としてEPMA-W濃度マップと,同視野内にて得られたEBSD-逆極点図(Inverse pole figure: IPF)マップならびに相(Phase)マップを図1に示す.図1(a)における白破線は,組織形態に起因するコントラストから見とで生じる摩擦熱と塑性変形を利用した固相接合法である.その接合部は,動的再結晶によって超微細粒組織となるため,場合によっては母材よりも高い強度を示す.またその特徴を生かし,表面改質のために応用した摩擦攪拌プロセス(Friction stir processing: FSP)1)は,所望の局所領域に対して組織の微細化・均質化が可能な他に類のない技術として知られている. 軟質なアルミニウム合金の施工から始まったFSW/Pは,ツールに超硬合金や各種セラミックスなどの高温特性に優れた材料を採用することによって,現在では鉄鋼材料のような高強度金属にまで適用範囲を拡大している2-6).しかしながら,鉄鋼材料のFSW/Pにおいて,ツールの摩耗は依然として不可避な問題であり,良好な加工品質を維持するうえで大きな障害となっている.一方,本研究にて着目するのは,このときに鋼中に分散されるツール構成元素の存在である.多くの研究者が“摩耗しないツール”の開発に注力するばかりで,摩耗したツール材と鋼材との間で生じる組織変化に着目した研究は国内外ともにほとんどない.その数少ない研究事例7)では,FSW中にPCBN製ツールから供給されたBがステンレス鋼基地との反応によってCrホウ化物の形成に寄与し,鋼中固溶Cr濃度の低下による耐食性の劣化が懸念されるというネガティブな結果を報告している.しかしながら,著しい塑性変形と元素添加が同時に起こる本現象は,局所領域へのメカニカルアロイングとして捉えることができ,ツール材と鋼材の組合せによっては,材料特性改善のためのポジティブな結果へと転換できる可能性を秘めている.本研究では,低炭素鋼板のFSPにおいて超硬合金ツールの構成元素の供給が組織形成に及ぼす影響を解明し,鋼表面の機械的性質向上に資する新しい局所的元素添加・合金化手法を提案することを目的とした. 2.実験方法 ■供試材には,低炭素鋼板SM490Aを使用した.FSPツールはWC-Ni系超硬合金製で,先端は直径15 mmのフラット型を採用した.鋼板表面に対し,ツール回転速度1.緒言 ■金属材料を接合する手法のひとつとして,摩擦攪拌接合(Friction stir welding: FSW)1)がある.FSWは,高速回転させたツールと呼ばれる棒状工具を表面に押し付けるこ( ■ ■年度■奨励研究助成ff若手研究者枠■■■■■ ■ ■■■ ■■ )■大阪大学■接合科学研究所■助教■山本■啓 3.実験結果・考察 攪拌部表層におけるツール元素の存在状態と組織形成への影響を調査するため,鏡面研磨した試料断面に対し,電子線マイクロアナライザ(Electron probe microanalyzer: EPMA)による元素分析や電子線後方散乱回折(Electron backscatter diffraction: EBSD)法による相同定・結晶方位解析を行った. ツール元素の供給による機械的性質への影響を調査するため,小型試験片を用いた引張試験を実施した.引張方向がFSP方向に対して垂直方向となるように,厚さ0.1 mmの試験片を攪拌部表層から採取した(詳細は後述).引張試験は,室温にてひずみ速度2.5×10-4 /sで行った.また,引張試験時のひずみの導入に伴う残留オーステナイト()への影響を調査するため,微小部X線回折(Micro X-ray diffraction: µ-XRD)装置による残留体積率の定量測定を逐次行った.X線源にはCoを採用し,出力35 kV及び80 mAにて発生させたX線を直径0.8 mmのコリメータを通して,試験片平行部表面の各測定点に75 minずつ照射し,回折角23.3~116.7 deg.の範囲のX線強度を2次元検出器にて観測した.これにより得られたピーク強度から,ASTM E975-13規格8)に基づいて残留体積率を計算した. 積もられた攪拌部の範囲を示している.その表層では厚さ100 µm前後のツール元素が濃化した領域が観察され,表面に向かうにつれて高濃度となった(図1(b)).攪拌部表面におけるXRD結果からは,-Feと-Feのパターンのみが観察されており,FSPによって鋼側に供給されたツール元素は,鋼中に固溶していると考えられる.図1(c)のEBSD-IPFマップでは,下部のツール元素が存在しない領域において,粗大なラスマルテンサイト(’)が観察されたのに対し,ツール元素が固溶した領域では,結晶粒径が− 363 −鉄鋼材料における摩擦攪拌加工中のツール摩耗を利用した 表面合金化技術の開発
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