図6:本研究で作製したレーザー加工装置。 図7:フォトニックジェットレンズの評価に用いたESR測定系(上)。下図は誘電体と試料の位置関係を示した試料近傍の拡大図。 ガルバノミラーは2枚の直交したミラーから構成されており、2枚のミラーを独立に動かすことでレーザーの照射位置を2次元的にスキャンすることができる。ガルバノミラーには非常に高い位置精度、高速動作といった長所がある。本研究で用いたモデルの場合、繰り返し角度精度は2 radとなっている。ガルバノミラーではミラーの変位と照射位置が比例するようにf-レンズと呼ばれる特殊なレンズを用いる必要がある。本研究では炭酸ガスレーザー(波長10 m)に対応したZnSe製のf-レンズを用いた。付属のソフトウェアで希望するバターンを描画したのち、ガルバノミラーに画像データをXY2-100プロトコルで送信することにより所望の加工が行える。あらかじめ、ZnSeレンズの焦点高さを測定しておき、加工対象が焦点に来るように位置調整してから加工する。炭酸ガスレーザーは非可視光であり、レーザー光を照射しながらの位置合わせは危険である。そのため、本研究では炭酸ガスレーザー同じ光軸で射出される赤色のガイドレーザーを用いた。このレーザーを用いると炭酸ガスレーザーをオフにした状態であらかじめ位置合わせが可能になるため、安全に作業が行える。 加工速度は、モーターの回転速度、炭酸ガスレーザーの出力、ガルバノミラーのスキャン速度など複数のパラメータによって変わってくる。本研究では加工対象に応じてそれぞれに最適な加工条件を設定した。特に加工速度はガルバノミラーのスキャン速度に大きく依存することが分かった。本研究では、スキャン速度としては概ね10 mm/s程度の値を用いた。実際に作製したレーザー加工装置を図6に示す。 ■■・ ■フォトニックジェットレンズの評価装置■フォトニックジェットレンズによって実際にレンズ近傍で電磁波強度が増大したかどうかを評価するため、本研究では電子スピン共鳴(ESR)という手法を用いて評価した。ESR測定では、磁場中に置かれた電子スピンのエネルギー分裂(ゼーマン分裂)に等しいエネルギーを持った電磁波をスピン系に照射すると、電子スピンが電磁波を共鳴吸収する。一般にESR測定の吸収強度は試料に照射されている電磁波の強度に比例することから、フォトニックジェットレンズを用いることでESR測定の信号強度が増強されれば電磁波強度が増大していることを意味している。 本研究では図7に示すようなESR測定系を構築した9)。光源として、フォトミキシング効果による連続波長可変テラヘルツ光源(エミッター)を用いた。この光源では、波長が近い2色のレーザー光を光伝導アンテナに照射することで、その差周波数にあたるテラヘルツ帯の連続テラヘルツ波を発生させることができる。発生できるテラヘルツ波は連続的に周波数を0.05-1.1 THzの範囲で変えることができる。出力は周波数にも依存するが、概ね0.1 THz付近で数十W、1 THz付近では1 W程度である。検出器にも同様のフォトミキシング効果を利用したフォトミキサー(レシーバー)を用いており、ホモダイン検波による高− 321 −感度なテラヘルツ波検出が可能である。 エミッターから射出されたテラヘルツ波は樹脂製のテラヘルツレンズを用いて試料位置に集光される。フォトニックジェットレンズを用いた測定では測定試料とフォトニックジェットレンズを密着させる形で貼り付けた。測定系全体を無冷媒型10 T超伝導磁石の室温ボア内に挿入し、試料位置が磁場中心に来るようにセットした。周波数一定の条件下で磁場を掃引することによりESR測定を行った。測定試料には、ESR測定の標準試料であるDPPH粉末を用いた。 4.実験結果 ■■・■■球形フォトニックジェットレンズ■■前節で説明したESR測定法を用いて、球形の誘電体によるフォトニックジェット効果を調べた結果を図8に示す。この測定では誘電体としてポリプロピレン(PP)球(直径15.9 mm)を用いた。測定は室温下、f=250 GHzの測定周波数で行った。 上側のデータは誘電体球を置かずに試料だけを焦点に置いた場合の測定結果である。約8.89 T付近に見える下
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