天田財団_助成研究成果報告書2023_2
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■キーワード:溶融金属,ガスジェット浮遊装置,熱物性値■ 溶接技術や近年目覚ましく発展している積層造形等のレーザー加工技術である.これらのプロセスでは高温の溶融状態を経て材料・素材が製造される.このような融体を経由する材料プロセスを理解・制御し,さらなる革新的な技術開発を通じて国際的な競争力を高めていくためには,プロセス中の広い温度範囲での物質移動現象を支配する高温融体の熱物性値のデータが不可欠である.■■例えばレーザーを使った切断,溶接,積層造形では,加熱部付近で溶融した金属の温度の分布を適切に制御しなくてはならない.そのためには,熱伝導・移流(流動) ・ く射による熱移動をつかさどる熱物性値(熱伝導率・粘性・放射率など)の正確な値が重要となる.これらのプロセスでは,融解・凝固に伴い合金の温度や組成が刻々と変化するだけでなく,レーザーが照射された箇所と周囲に2000Kを超えるような温度勾配が出現する.こうした極限状態におけるプロセスを正確にシミュレーションするためには,融点近傍の純金属の融体の熱物性データだけでなく,組成や広い温度範囲に応じて融体の物性値がどのように変化するかを予測できる系統的なモデルの構築が不可欠である.■■一般に溶融金属および合金の粘性,ηは融点近傍で大きく変化するアレニウス型の温度依存性,■を示すことが知られている.ここでη0∙は高温での粘性の漸近値,EAは活性化エネルギーである.しかし,金属融体の粘性については報告値に20%以上のばらつきがある[1].これは高温で溶融状態にある金属や合金は非常に化学活性なため容器と反応し,正確な値を計測することが難しいためである.また,溶融合金では,純金属に比べて大きく融点が異なり,測定温度範囲が一致しない.そのためモデルの評価が行えない.このような測定の難しさから,その重要性にも関わらず多成分系の粘性を表せるシステマティックなモデルは未だに構築されていない.■この問題を解決し,高温金属融体のシステマティックな粘性モデルを構築するためには,試料と容器との反応を防いだ広い温度範囲での溶融金属の粘性測定と,正確な粘性1.研究の目的と背景 ■我が国の重要な製造業を支え,牽引しているのが,鋳造・同志社大学■研究開発推進機構■(2019年度 一般研究開発助成 AF-2019219-B3)■教授■小畠■秀和■■の活性化エネルギーと高温での粘性の漸近値の決定が必要である.そこで本研究では,雰囲気制御型ガスジェット法を用いた粘性測定を試みた.通常のガスジェット浮遊では大気中で試料が酸化するが,密閉型のガスジェット浮遊では酸素を除去した不活性ガス雰囲気で測定できるため試料の酸化を防いだ実験を行う事ができる.この方法により溶融合金の蒸発を抑え,2000℃を超える高温から過冷却状態までの広い温度範囲での測定が可能となる.さらに,申請者が別途開発している2波長反射率比法による放射率を必要としない非接触温度計測により,超高温でも放射率に依存しない正確な温度測定が可能となる.これらの手法により,粘性の活性化エネルギーと高温での粘性の漸近値を精度よく決定できるようになると考えられる.■■2.実験方法 ■2.1. 液滴振動法■■溶融状態で空中に液滴を浮遊させると,液滴はその表面張力により真球の形状を保つことができる.この液滴にパルス状の振動を加えてその表面振動を励起させると,液滴はその表面張力に応じた振動数で表面振動を開始する.その表面振動周波数はRayleigh の式[2]によって■と表される.ここでσ(Nm-1)は表面張力,fR (Hz)はレイリー表面振動周波数,M(kg)は試料の重量である. ■また,励起された表面振動は時間とともに減衰していく.この減衰時間τ (s)を用いてその融体の粘性 ηは と表される[3].ここでR (m)は液滴の半径,ρ (kg m-3)は液滴の密度である.これらの関係式を用いて液滴表面振動の表面振動周波数と減衰時間を正確に計測することで,表面張力および粘性を決定できる. ■電磁浮遊を用いた液滴振動法では,重力に打ち勝つ浮遊力を生み出す必要性から電磁撹拌が促進され,振動が減衰しないため地上では粘性を測定できない.そのため航空機の放物線飛行や国際宇宙ステーションでの微小重力環境で測定が行われるが,実験回数が制限されるため粘性の温度依存性を決定することは難しい.一方,静電浮遊装置で− 254 −ガスジェット浮遊法で実現する■超高溶融金属のシステマティック粘性モデル■𝜂𝜂=𝜂𝜂0exp(𝐸𝐸A𝑅𝑅𝑅𝑅) (1)■𝜎𝜎=38𝜋𝜋𝑓𝑓R2𝑀𝑀 (2)■𝜂𝜂=𝑅𝑅2𝜌𝜌5𝜏𝜏 (3)■

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