3.実験結果および考察 図4 二相ステンレス鋼溶接継手小片における溶接部 溶接継手小片の溶接部断面近傍における硬さ測定には、マイクロビッカース硬さ試験機を使用した。硬さ測定位置は、二相ステンレス鋼板の表面側および裏波側から0.2mmの深さと板厚の中央部(3列)の計5列を測定間隔0.15mmで行い、試験力は1.961Nとした。 ファイバーレーザ溶接を施した溶接継手の引張強度特性を検討するため、二相ステンレス鋼板同士の突合せ溶接を行った後、レーザ切断で引張試験用突合せ溶接試験片を作製した。引張試験用突合せ溶接試験片はJIS Z 2241に準拠し、全体の長さ70mm、幅15mmとし、平行部の長さ15mm、幅5mmの形状になるようにレーザ切断を行った。比較のため、板状の二相ステンレス鋼(SUS821L1)およびオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)から、引張試験用突合せ溶接試験片と同一の形状にレーザ切断し、それぞれ未溶接試験片として引張試験に供した。 図3は、引張試験用突合せ溶接試験片の外観とチャッキング時の様子を示す。引張試験用溶接試験片は図に示すように上部の二相ステンレス鋼板 A と下部の二相ステンレス鋼板 B が突合せ溶接されており、中央部には溶接ビードが確認できる。引張試験にはテンシロン万能材料試験を使用し、標線間距離 15mm、チャック間距離30mmとした。引張試験用突合せ溶接試験片の向きは図に示すように溶接ビードがいずれも同じ方向になるように固定した。引張試験用溶接試験片は下部(母材 B)側治具を固定し、上部(母材 A)側治具は引張方向に移動する。引張試験のクロスヘッド変位速度は 3mm/min とし、引張試験中はデータ処理システムを用いてデータを収集した。引張試験には溶接開始直後(No. 4)、中間箇所(No. 9)、終了直前(No. 15)の引張試験用突合せ溶接試験片をそれぞれ使用した。引張試験前および引張試験後における突合せ溶接試験片は樹脂埋めした後、二分割に切断した。各溶接試験片の切断面は、ダイヤモンド研磨材により鏡面研磨した後、10%しゅう酸電解エッチングを行い、光学電子顕微鏡を用いて断面組織観察を行った。 二二相相スステテンンレレスス鋼鋼板板 母母材材AA 母母材材BB 二二相相スステテンンレレスス鋼鋼板板 図3 引張試験用溶接試験片の外観とチャッキング 時の様子 上上部部側側治治具具((移移動動)) 溶溶接接ビビーートト 下下部部側側治治具具((固固定定)) ファイバーレーザ溶接を施した溶接継手の耐食性を検討するため、二相ステンレス鋼板同士の突合せ溶接試験片に対して複合腐食試験を行った。試験方法はJIS H 8502に準拠し、塩水噴射(5%NaCl、35℃)を2h、乾燥(60℃)を4h、湿潤(95%RH、35℃)を2hの計8hを1サイクルとして96サイクルを実施した。複合腐食試験後の引張試験用突合せ溶接試験片は、前述のようにテンシロン万能材料試験を使用し、標線間距離 15mm、チャック間距離30mm、クロスヘッド変位速度 3mm/minとして引張試験を行った。 3・1 レーザ出力1kWにおける二相ステンレス鋼溶接継手小片の断面組織とビッカース硬さ 図4は、レーザ出力1kWでファイバーレーザ溶接を施した二相ステンレス鋼溶接継手小片における溶接部近傍の断面組織一例を示す。断面組織より、二相ステンレス鋼板(母材Aと母材B)間には溶接金属が形成され、溶込み形状は図4に示すように溶接金属の上部の幅が広く、裏波側は溶込み幅が狭くなるワインカップ形状であり、貫通溶接されていることがわかる。 図5は、レーザ出力1kWでファイバーレーザ溶接を施した二相ステンレス鋼溶接継手小片における溶接部近傍の断面組織とマイクロビッカース硬さ試験結果一例を示す。断面組織より、二相ステンレス鋼板(母材Aと母材B)間にはいずれの溶接継手小片(計15個)においても、溶接金属が形成されている。一方、溶接継手小片の一部には図に示すように鋼板の裏波側に溶込み不足からなる未貫通溶接部が確認され、レーザ光の出力不足により十分な溶込み深さが得られなかったと考えられる。断面組織における表面側のマイクロビッカース硬さ試験結果より、二相ステンレス鋼板(母材Aおよび母材B)のビッカース硬さは249~264HVの範囲であるのに対し、溶接金属におけるビッカース硬さは280~305HVの範囲であった。すなわち、溶接金属は二相ステンレス鋼板(母材Aおよび母材B)と比較して40~50HV程度硬化する傾向を示した。 母母材材AA近傍の断面組織(レーザ出力:1kW) 溶溶接接金金属属 母母材材BB55mmmm − 251 −
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